近代日本を象徴するような、西洋風デザインの上野駅。
東京における北の玄関口とされ、かつては東北・北陸地方へ多くの直距離列車が発着していました。
今日乗車するのはかつて上野〜札幌を結んだ寝台特急カシオペア。JR東日本のフラッグシップとして活躍し続け、2016年の北海道新幹線開通に伴い廃止されました。
現在は団体列車カシオペア紀行として運行を続けており、列車には乗ることができます。
ただし料金は大きく跳ね上がっており、上野から青森まで片道で11万円。これでも何とか手を出せる範囲のツアーを選びました。
上野を昼間に出発して、青森駅に到着するのは翌朝8時半。東北本線をほぼ走破する寝台特急の旅をお届けします。
この時間帯はカシオペア紀行の乗客専用になっている、13番線へ向かうエスカレーターへ。
2階のホームをそのまま貫いて地上まで降りるのは、特別感があります。
かつて北海道行きを代表として、多くの寝台特急が発着した13番線ホームです。
JR北海道の駅みたいな古さを感じる発車標、ここには「団体」とだけ表示されていました。
15:18、遂にずっと憧れだった寝台特急カシオペアが入線します。
機関車は一番後ろについているので、バックしながらの入線。最初はすごく静かなのに音が大きくなっていくのが、客車列車らしいですね。
牽引するのは深い赤色をしたEF81形電気機関車、大きなヘッドマークを掲げています。
機関車と直接連結されているのはラウンジカー、フリースペースなので後ほど訪れてみましょう。
寝台特急カシオペアは列車を動かす機関車が、お客さんが乗る客車を引っ張る方式です。
客車には電気をとるパンタグラフがついておらず、ラウンジカーに積まれたエンジンで発電し、客室に電気を回しています。
一番後ろには1室だけの展望スイート。これこそかつてフラッグシップだったことを思わせる、シンボル的存在ではないでしょうか。
それでは車内へ乗り込みましょう。
カシオペアは全車両がA寝台個室であり、通路が片側に寄っています。いつもサンライズに乗って、ここだけ違うなと思う車両が標準なのです。
今回はカシオペアツイン、上段個室を利用します。
室内に入ると非常に開放的で、ちゃんと生活できるような空間です。
展開するとベッドになるので、座席はソファのように幅が取られています。
対面して椅子が並んでおり、奥には荷物を置ける棚が設置されていました。
四角いところにはかつてテレビがあったのですが取り外され、代わりにコンセントがつけられました。コンセントが付いたのは今の時代本当にありがたいですね。
そして驚くのは1室1室にお手洗いが備えられていること。開くタイプの洗面台もあって、完全にホテルを思わせます。
いよいよ半日に渡って東日本を縦断する、寝台特急の旅の始まりです。
15:50 上野駅 発
数々の長距離列車を送り出してきた、上野駅地上ホームから出発です。
数々の高架下を抜けますと、長々と続く鶯谷のホテル街を走ります。始まりが俗の世界ってのが、都会の世界から旅へ逃げ出すようで良いですね。
京浜東北線の横を通過しつつ、上には新幹線の高架橋も見られます。東海道と比べると建物の密度が低く、同じ寝台個室から見る景色の違いも面白いです。
荒川を渡って東京脱出。埼玉県に入りました。
右手にはイトーヨーカドーを主にした、ショッピングモールアリオ。
この建物はサッポロビール川口工場(埼玉工場)の跡地に作られています。
この辺りから一本高架が登ってきて、東北本線を越えて左へ移りました。こちらはサッポロビールへ伸びていた貨物線用線の廃線跡で、東北本線などと平面交差しないように高架で越えていたのです。
列車は真横を走る京浜東北線を追い抜きます。寝台特急サンライズでも経験していることですが、こういった通勤電車を悠々と追い越すのは気分が良いですね。
列車は埼玉県で一番の大ターミナル駅、大宮駅を通過。
まさかこの駅まで通過してしまうとは思いませんでした…。
上野駅発車後から放送による案内が流れていまして、車掌さんがいらっしゃるとのことでした。
音が鳴るとボタン盤には「車内販売がまいりました」の表示が現れます。カシオペアでは確かに車内販売があってそのためですが、もうすぐ車掌さんがきそうな感じ。
ここでサクラデザインのカシオペア乗車記念カードをいただきました。ボードを持っての記念撮影もして下さります。
久喜駅を通過する時、特急りょうもう23号が停車中。
ちょうど発車時刻だったようで、東北本線との立体交差でピッタリすぎる乗り越えでした。
利根川を渡りまして、古河駅前後だけ一瞬の茨城県。すぐに栃木県に入ります。
食事は三部に分かれていまして、今回は17:00より。3号車のダイニングカーへ来るよう放送で案内があります。
通路には階段が設置されており、構造的にはしまかぜのカフェ車両の2階だけみたいです。
案内のまま2階へ登って席につきます。異国情緒あるレストランのような空間です。
ダイニングカーでの食事として、懐石御膳とフランス料理を選べるのですが、今回は後者を選択。
六角形のお重には彩り豊かな食材が詰まっており、目で見ても楽しませてくれます。
ご紹介しきれないので、こちらがカシオペア懐石御膳のお品書きです。
海老や牛タン塩焼きの他、バイ貝など個人的になかなか機会のない食材も。
こちらはお刺身を中心にしており、しっかりした歯ごたえと優しい甘さの他、ほのかに磯の香りを感じるようでした。
続いてやってきた、キスや海老の天ぷら。駅弁ではなく温かいまま車内でいただけるとは凄いことです。
大きな筍が乗った炊き込みご飯や、お吸い物も非常に美味しかったです。
宇都宮駅に停車、東北本線・日光線のE131系との共演を果たし、相当時代が変わったことを知らしめられます。
ダイニングカーから戻る頃には、まもなく関東平野が終わろうというところ。
夕陽に引き伸ばされるような空が、長距離列車ならではの旅情を掻き立てます。
今度は機関車が連結された、先頭のラウンジカーへ向かいます。
冒頭でお話ししたとおり電源が積まれているため、事業用車両っぽく機械が迫っている感覚です。
扉が開くと両側ガラス張りの空間が広がり、高級感あふれる温かな光に包まれます。
那須塩原駅を通過しまして、黒磯駅に停車。
ここまでは電化方式が直流だったのですが、地方路線に適した交流区間に変わります。
黒磯駅を出ると広大な関東平野が終わり、いよいよ東北地方です。
東北本線の定期列車が走る線路は新白河駅で完全に分断されており、コンクリートの壁で隔たれ車止めが作られています。
通過するのは今回のような団体列車や貨物列車のみで、新白河駅の関を越えて直通したのは、本当に初めての体験です。
19:05に白河駅に到着しまして、ここで40分停車します。
駅前に位置する白河城がライトアップされており、心ゆくまで眺められるのが良かったです。
長時間停車するため、撮り鉄さんもかなり多く集まっていらっしゃいました。
すれ違う通勤列車も東北のものに変わり、地方が変わったのだと実感できます。
カシオペアでは車内販売を行っており、ホットコーヒー(320円)とアイスクリーム(360円)を購入しました。まちむら農場アイスクリームは、車内販売としてカシオペアくらいでしか見ません。
また、コロナ禍でラウンジでの飲食が長らくできずパーテーションもあったそうですが、規制緩和でここでも食べられるようになりました。素晴らしいっ!
19:45に白河駅を発車。撮影に専念されていた撮り鉄さんたちも、手を振ってお見送りしてくださいます。
水郡線が分岐する安積永盛駅を通過し、郡山貨物ターミナルを通ります。
2023年5月、郡山市がいわき市の人口を越えたことにより、東北地方において仙台市に次ぐ人口規模を有する都市になりました。
郡山駅では5分ほどの停車。東西南北に路線が分岐し、ぷっくりとした福島県各地に線路を張り巡らせます。
松川駅では20分程の停車。理由はよく分かりませんが、予定よりさらに約15分長く停車していました。
真っ暗な闇に包まれる中、遠くの方にはキラキラと福島のまちが見えてきます。
この日はほぼ満月の状態でかなり明るく、雲の輪郭に光彩を掛けているようです。
福島県の県庁所在地、福島駅に到着。
ここでは10分ほどの停車です。22時前になるとおやすみ放送が流れ、ここから放送はしないと案内がされました。
福島駅からは飯坂温泉へ至る地方私鉄、福島交通が伸びています。都市部から各地へ帰宅するお客さんを乗せ、夜遅くまでその輸送を支えます。
東北本線との並走区間が長く、2駅分線路の並走を見ることができました。
東福島駅では1時間30分もの停車時間があります。ここまで十数分ほど遅れていたのですが、ここで完全に回復できるはずです。
すぐ横には東北新幹線の高架が見えており、はやぶさ47号が走り抜けていきました。こちらは最終の仙台行きはやぶさ号となっています。
東北本線の中でも難所である、国見峠を越えていきます
再びラウンジカーへやってきました。
常磐線との合流地点となる、岩沼駅を通過します。
ここまで8時間以上在来線を走り続けてきたわけですが、常磐線経由なら特急ひたちがこの区間を、日常的に走っているんですよね。そう考えるとあの特急の凄さを改めて知らしめられます…。
宮城野貨物線が分岐しまして、東北本線は仙台駅に入線するため急カーブ。
東北地方最大の駅となる、仙台駅に到着しました。
仙台駅には0:40の到着、もうホームにお客さんの姿は見られません。
1分停車していたかどうか、蛍光灯が強調する空っぽな空間を出発します。
真っ暗で何も見えない松島を通り過ぎた先、鹿島台駅で1:12から2:02までかなりの長時間停車です。
部屋に戻りまして、そろそろ眠るべく座席をベットに転換しましょう。
先程までボックスシートのように、対面していたこれらの椅子。
座面を引き伸ばしてできたスペースに、背もたれをぺたんと倒すとフラットになります。
それぞれにシーツを敷き、L字型に寝転ぶ形です。
今日はこちらで寝させていただくことに。
カシオペアの浴衣も備えられていまして、こちらを着込みます。ちゃんとマークが付いてるの良いですね。
それでは毛布を被りまして、おやすみなさい…。
5:25頃、ふと目を覚ましました。
少し部屋のブラインドを開けますと、朝の素晴らしい空色です。既に盛岡駅を出発しており、間も無くIGRいわて銀河鉄道の滝沢駅を通過するあたり。
まだ日の出ギリギリ間に合うのでは…と、思い立つようにラウンジへ向かいます。
同じことを考える方が多い訳で、早朝ながら10人くらいのお客さんがいらっしゃいました。まさに日が昇ろうとしており、渡っている川もオレンジ色へ変わっていきます。
山の稜線によって波打ちながらも、新しい一日の始まりです。
東北新幹線で最も利用者の少ない駅、いわて沼宮内駅を通過。新幹線駅としては目立ちませんが、ここから盛岡までは通勤通学客に向けた、在来線普通列車が多く設定されています。
奥中山高原は旧東北本線屈指の難所で、十三本木峠と言われる23‰の登り勾配が連続します。
部屋に戻りまして、うつらうつらしながらの二度寝です。
二戸駅に到着です。新幹線はやぶさも停車する駅、このあたりには「〇戸」の地名が集中しており、四以外は一〜九まで揃っています。
朝ごはんを届けてくださいました、カシオペア紀行の掛け紙をとっておきたい、幕の内弁当です。
岩手県から青森県に入り、IGRいわて銀河鉄道から青い森鉄道に入っています。
蛇行を繰り返す馬淵川と近づいたり離れたりしながら、どんどん北上します。
八戸駅で停車、八戸線のハイブリット車両E130系気動車が停まっており、側面にはウミネコが描かれています。
そんな八戸線を走るレストラン列車、TOHOKU EMOTIONもいました。
今度ご紹介しますが、これが本当に素晴らしい観光列車だったのでお楽しみに。
八戸市は港町であんまり平野というイメージがないのですが、開けた田んぼや住宅街を走ります。
1968年に線路付替えが行われた、山がちの区間へ。特にここ千曳駅はその時に移設されており、秘境駅と称されることも。
7:38、野辺地駅に到着しました。
本州最北の路線、大湊線のキハ110形気動車が停まっています。恐山や大間崎などへの観光も面白そうです。
朝に車内販売で引き換えられるドリンクチケットがあるので、ホットコーヒーをいただきました。ウェルカムスイーツとして提供されていた、カシオペアの箱と共にパウンドケーキと一緒に。
今回の行程で唯一海を見られる区間へ、右手には陸奥湾が広がります。
夏泊半島を過ぎた先、間も無く浅虫温泉駅になるところは注目です。
浅虫温泉駅にはかつて特急列車が停まっていましたが、東北新幹線の開業により在来線特急がいなくなると、普通列車が停まるだけの小さな駅に。
ホームの長さがその過去をものがたりますが、屋根が消えていたりと歴史の移り変わりを伝えてきます。
寝台個室からこの景色を眺められる日が来るとは、かなりの感動ものでした。
東青森駅には貨物駅が隣接しており、北海道への貨物列車はここで機関車の交換を行なっています。奥にはショッピニングセンターが見られますが、かつてはあの場所まで貨物駅の用地でした。
ついに青森駅到着が近づいてきまして、お世話になったこの寝台個室からもお別れです。
最後はラウンジカーにて、青森駅到着を迎えたいと思います。到着時にここへ来る方はいらっしゃらないようで、独り占めしやすい時間帯ですね。
左手には青森操車場跡地の、青い森セントラルパークが広がっています。新青森駅候補地の一つとして、ここも挙げられていました。
現在は青森信号場となっており、東北本線と奥羽本線を直接結ぶ貨物支線の分岐点です。
左手に注目していると、東北本線から奥の方へ分かれていく線路が見られます。あちらは奥羽本線へ繋がっており、大阪方面の日本海縦貫線へ向かいます。
しばらくすると、その日本海縦貫線の一端を担う奥羽本線が合流してきました。青森駅周辺ではこの3つの線路によって、三角形が描かれています。
これをすぎるといよいよ青森駅のホームへ入線、機関車ならではの徐々にスピードを落としていく独特な減速で停車していきます。
完全に停止したのは青森駅の本当の端っこ。現在では使用できない跨線橋の所まできました。
現在青森駅に来る最長編成の列車は、この寝台特急カシオペア。
かつては青函連絡船へ乗り換える多くの方が渡った、歴史ある跨線橋の下にまで潜り込んでいます。
普段ならこんな場所にいたら不審者ですが、今日はちゃんとその理由が停まっているので安心です。
短編成の列車ばかりになって、今では駅名標も端っこ一つだけになりました。
このカシオペアは東京へ帰らなければなりません。
先程一番前にいた機関車は6番線よりも外側へ来ました。この線路を使って反対側へ回り込み、進行方向を変えます。
この時1〜6番線ホーム全てに列車が停まっており、ものすごい感動を覚えました。青森駅がこんなに賑やかになるなんて…。
そして反対側にやってきた機関車が連結しまして、東京へ戻る準備が整いました。帰りはお客さんを乗せずに空なので、その分料金が高くなっています。
カシオペアとはこれにてお別れです。
正直なかなかの料金で乗るのは大変ですが、牽引する機関車の関係からいつ走らなくなってもおかしくない列車です。
北海道行き寝台特急が廃止された時代の区切れの向こう側を、少しだけでも味わえる鉄道の旅。
その片鱗を楽しんでいただきたいですし、何とかしてもう一度乗れるよう頑張りたいと思いました。
今回もご覧いただき、ありがとうございました。
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