東北地方を貫く背骨のようにして走る、JR東北本線。
福島県と宮城県の県境にかけて、バイパス線になることを目指して作られたのが国鉄丸森線です。
国鉄分割民営化時に、第三セクター鉄道の阿武隈急行となり、阿武隈急行線として走っています。
東北本線よりも緩い勾配で作られ、東北本線と比べて新しめの高規格路線。
2020年には新型車両も導入されており、かなり立派な三セク鉄道です。
その一方、宮城県側はバス転換の具体的な検討を始めていたりと、一部区間では廃線の可能性まで視野に入っている状態。
かつては東北本線の新線になりそうだった一方で、現在ではローカル線。一体どんな路線なのか見てみましょう。
こちらは阿武隈急行と東北本線の乗り換え駅、宮城県槻木駅です。
阿武隈急行線ホームはJRホームの一角にあり、もはやJR東日本の路線みたいな扱いになっています。
「青森方面」の案内が残っていたりと、東北本線を長距離特急が行き交っていた時代を伝えてくれました。
まず乗車するのは2020年より走っている、新型車両AB900系です。
色は5種類あるのですが、こちらは桃色でした。
JRと阿武隈急行の間に中間改札も無く、そのまま乗り換えることができます。
基本的にワンマン列車なので、車内か駅改札での清算です。
車両側面には阿武隈急行を示す「A」が大きく書かれています。
こちらにはポケモンの描かれた駅名標。
左側のラプラスはみやぎ応援ポケモン、右側のラッキーはふくしま応援ポケモンに任命されており、阿武隈急行は両県を走ることからこのような駅名標が作られています。
見慣れたJR式の駅名標もあって、阿武隈急行が分岐していることを示していました。
他にも駅の外っぽいですが、国鉄時代からありそうな駅名標まで見られました。
さっそく新型車両の中へ入ってみたのですが…
これってJR東日本の車両じゃないんですか!?
とても別会社の車両とは思えないほど、東北本線で走る車両と酷似しています。
それもそのはずで、AB900形はJR東日本のE721系をベースにした車両。青い森鉄道や仙台空港鉄道など他の三セク鉄道でも、これが基の新型車両を導入しています。
車両間を覗き見してみると、JR東日本の車両メーカー「J-TREC」と「阿武隈急行」の銘板が並んでました。
阿武隈急行では自転車をそのまま載せられる「サイクルトレイン」を実施しており、ドア近くのところに自転車マークのシールが貼ってあります。
ドア上部分などを見ても、確かに阿武隈急行仕様だということが分かりました。
列車は槻木駅を出発です。
阿武隈急行の一部列車は朝夕時間帯、JR東北本線に乗り入れて仙台駅まで直通しています。そのため槻木駅より北側で線路が繋がっている状態です。
しばらくは東北本線の上下線に挟まれたまま。阿武隈川から分かれる白石川を共に渡ると、立体交差で離れていきました。
槻木駅のホームは1面1線で列車が1本しか入れないため、お隣の東船岡駅が交換可能駅です。
岡駅も行き違い可能駅にする計画があったそうで、駅前後の線路がY字に分岐しそうな形をしていました。
角田駅は角田市の代表駅で、阿武隈急行線の途中駅で一番利用客が多いです。
槻木方面のホームには多くのお客さんがいらっしゃって、仙台方への移動需要が大きい様子でした。
阿武隈急行はかつて単年度収支が黒字になった年もありましたが、近年は赤字続き。2019年度における、1kmあたり何人乗っているか示す輸送密度は1455.9人です。
福島民友新聞(2024年05月29日)の報道によれば、『宮城県柴田町の槻木―東船岡間の平日利用は上下とも1日700人台だった。福島市の福島―卸町間の1300人台と比べて少なく、鉄道の維持をためらう一因になっているとみられる。』としており、この差が宮城県内沿線自治体の積極性が劣る結果になっています。
第三セクター鉄道は県や自治体も出資しています。県を跨いでそれぞれ利用状況が異なると、特に鉄道存廃の議論が進みづらいです。
国鉄丸森線は槻木駅から南下するように建設され、1968年に槻木駅〜丸森駅で部分開業しました。
終着駅だった丸森前には、国鉄丸森線開通記念の石碑が置かれています。
ほとんどの区間で建設工事が終わっていましたが、利用者が少なかったため国鉄分割民営化時の廃止対象に。第三セクター鉄道として維持することを決め、1986年に阿武隈急行へ転換しました。
国鉄丸森線は非電化路線でしたが、東北本線のバイパスになる計画だった事から、こちらの第二阿武隈橋梁やトンネルなど含め電化規格でした。
1988年の全線開通で福島駅まで繋がり、これと同時に電化を果たしています。
角田盆地を過ぎて険しい山々へ、トンネルを貫き85km/hでの走行です。
阿武隈急行線の最高速度は95km/hで、特急幹線ではないかと勘違いしてしまうほど、非常に迫力ある走りを見せてくれました。
宮城県最南端に位置する、あぶくま駅を出発。
阿武隈急行線に沿って流れる阿武隈川では舟下りが行われており、この駅の近くにはその船着場があります。
列車は全長2,281mに及ぶ羽出庭トンネルへ。
トンネルを抜けて程なくすると、宮城県から福島県へ県境を越えました。
福島県に入って最初の駅、兜駅の利用客数は僅か3人/日です。
富野駅は列車が折り返せる構造で、福島駅からここでの折り返し運転が行われています。
「やながわ希望の森公園前」は、日本で5番目に長い駅名です。
1990年に鹿島臨海鉄道の「長者が浜潮騒はまなす公園前」駅が開業するまで、鉄道駅において日本一長い駅名でした。
途中の主要駅となっている、梁川駅で下車しました。
後続で旧型車両が来るみたいなので、そちらもご紹介できればと思います。
梁川駅の近くには阿武隈急行の車両基地があって、カラフルな車両たちが並んでいました。
こちらは駅員さんがいらっしゃる有人駅。伊達市ステーションプラザ梁川が併設しています。
駅近くには伊達市梁川支所があります。2006年に伊達町などと合併して伊達市になりました。
1時間ほど経ちまして、槻木方面の列車が先に来ました。
こちらは阿武急ラプラス&ラッキートレイン、駅名標だけでなくラッピング列車まで走っています。
宮城県と福島県の応援ポケモンとして、阿武隈急行も応援してくれているようです。
続いてやってきたのはこちら、8100系電車です。
阿武隈急行全線電化開業に合わせて製造され、30年以上活躍しています。
JR九州で走る国鉄713系電車をベースとしつつ、寒冷地仕様の車両です。
新型車両AB900系へ置き換えられつつあり、国鉄車両と同じレベルの振動など特徴的です。
運転台周辺では後面展望も、広い視野で楽しむことができます。
梁川駅を出発しまして、新型車両の停まる車両基地真横を通過。ここには阿武隈急行本社も入っています。
水田の中を走りつつも、だんだん住宅街を見られるようになってきました。
伊達市役所の最寄駅である大泉駅に到着。
ロータリーなどバリアフリー化には、まちづくり交付金が投入されています。
駅を出発すると、かなり立派な市役所真横を通過。
プールなども併設されており、市の中心地として整備されています。
盛り土区間へと登っていき、伊達市街を上から見下ろすことができました。
1kmほどでお隣の保原駅、この駅舎は旧伊達郡役所を模しています。
上保原駅の近くには,相馬福島道路の伊達中央ICを見られました。
高子駅では反対方向の列車と行き違い。
新駅かと勘違いするほど、駅前広場が綺麗でした。
伊達市から福島市へ入り、第一阿武隈川橋梁を渡ります。
阿武隈川を渡ったのは計2回で、そんなに多くはありません。
一線スルー化されているように見える、瀬上駅を出発。
貨物列車をはじめとした長編成の列車を行き違わせる計画だったので、有効長が長いほかホームから離れたところに、安全側線の用地もあります。
阿武隈急行線で一番新しい、福島学院前駅。2000年に開業した新駅です。
卸町駅を出発すると、次は終点の福島駅。
卸町駅〜福島駅の駅間距離は5.6kmと、非常に長くなっています。
というのも、途中の矢野目信号場からJR東北本線の線路上を走るためです。
こちらは矢野目信号場、単線である阿武隈急行線の線路が二手に分かれます。
槻木駅以来の再会を果たした東北本線と、ここで合流します。
矢野目信号場〜福島駅において、阿武隈急行の列車はJR東北本線の線路上を走ることになるのです。
矢野目信号場の線路構造はこちら。阿武隈急行の下り線は東北本線と立体交差し、上下線それぞれ接続しているのが分かります。
しばらくすると福島交通飯坂線が近づいてきました。福島交通飯坂線の美術館図書館前駅の真横を通過します。
東北新幹線の高架をくぐると、次の曽根田駅。ちょうど飯坂線の列車とすれ違いました。
長距離輸送を担う旧国鉄に対し、私鉄の福島交通飯坂線は短距離輸送を担っている、役割分担を垣間見ることができます。
福島駅に入ったところで、阿武隈急行ホームへ入るため線路が分かれました。
これでJRの改札と阿武隈急行の改札が、しっかり分かれているのです。
槻木駅からそのまま乗り通していたら、1時間半で福島駅に到着です。
ちなみにこのホームは、阿武隈急行と福島交通で共用しています。
北に向かって、左側が阿武隈急行線、右側が福島交通飯坂線です。
しかも阿武隈急行線はJRと同じ交流、飯坂線は直流と電化方式が異なっており、架線柱は「JR+阿武隈急行」「飯坂線」でセットになっています。
阿武隈急行設立時、株式の51%を福島交通が保有していたこともあり、駅構内の共有が今に残っているのです。
改札の近くにはJRのりかえ口が設けられており、1番線ホームへ直接入ることができます。
かつては東北本線のように、国土軸の一部になるはずだった阿武隈急行。
役割を変えて、福島交通と同様にローカル輸送を担っている現在をお届けしました。
廃線もチラつくようになっていますが、これからも活躍し続けてくれることを祈りたいです。
今回もご覧いただき、ありがとうございました。