こちらは早朝の名鉄岐阜駅。
名鉄名古屋本線のターミナル駅であり、1〜4番線ホームには特急含め多くの列車が発着します。
そこから少し離れた地上に位置するのが、各務原線ホーム。今日ご紹介するのはここから出発する急行列車です。
「急行 犬山経由吉良吉田」と表示されたこちらの列車。特に何もおかしなところは無さそうですが、実際乗ってみるとあまりにネタ要素の多い通勤列車なのです。
今回は名鉄の中でも特に有名な、6:16名鉄岐阜発の急行犬山経由吉良吉田行き「774列車」をご紹介します。
2両編成でスタート
名鉄岐阜駅停車時点では、ご覧の通り2両編成での運行。
2020年より製造されている、新型車両9100系電車での運行です。
ここで覚えておきたいのが、先頭車両の番号9104。名鉄岐阜駅からはこの番号の列車に乗ります。
私鉄らしく駅数の多い各務原線ですが、急行列車は掻い摘んで停車していきます。
しかし、2023年3月のダイヤ改正で各務原線の急行列車は廃止されるので、このような表示もなくなります。
廃止される各務原線急行
06:16 名鉄岐阜駅 発
発車時刻になると先頭車両には少なくとも4,5人の鉄道ファンが集まっています。単なる通勤電車なのに注目される、それだけに期待が膨らみます。
ゆっくり走り始めまして、最初に通過するのは田神駅。
かつて岐阜を走っていた路面電車、美濃町線から各務原線を経由して名鉄岐阜駅繋ぐための、田神線が駅の先で分岐していました
最初の停車駅は切通駅、向かいからは犬山駅始発の急行岐阜行きがすれ違ってきます。
続いて停まるのは新那加駅です。
名鉄各務原線はJR高山本線と並行しており、新那加駅周辺は特に線路が近づく場所。
ホームからはJRの那加駅が見えるレベルです。ちょうど向こうにも列車が停まっていました。
各務原市の中心駅である各務原市役所前駅に到着。
不思議な駅名の六軒駅は、近隣に民家が六軒しかなかったことに由来するとされています。
二十軒駅もあり同じ由来ですが、急行が停まるのは六軒駅だけで現代では逆転してますね。
三柿野駅では6分ほどの停車。
かつて単式ホームには、三柿野駅始発の中部国際空港行きミュースカイが停まっていました。現在それは廃止されているのですが、ミュースカイを先に出していた頃の名残がダイヤに残っています。
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すぐ近くには工場が隣接しています。航空自衛隊岐阜基地があって、イベント開催時には臨時列車が運行されることも。
名電各務原駅に停車。名鉄は名岐鉄道と愛知電気鉄道が合併しており、名岐鉄道の全身が名古屋電気鉄道。これの略称が冠されています
左側からJR高山本線が隣り合うにまで近づき、鵜沼宿駅を通過。
ちょうど高山本線のキハ75系気動車が来ました。
あちらは単線非電化なのに対し、名鉄各務原線は複線電化。かなり設備に違いが見られます。
前方6両連結 新鵜沼駅
そしてまもなく新鵜沼駅に到着。
JR高山本線はまっすぐ進む一方で、名鉄は右へカーブします。この線路上で一旦停車しました。
前方には6両編成の列車が見えています。新鵜沼駅で2両+4両のこれら列車と連結するのです。
一度ドア扱いをしたのち、岐阜から乗ってきた9104含め2両の車両が一度ドアを閉めて連結。ここから8両編成で運転します。
名鉄は最大8両での運転。カーブしているホームからは先頭を見られます。
新鵜沼駅からは名鉄各務原線から犬山線へ。かつては鉄道道路併用橋だった犬山橋からは、国宝にも指定された犬山城が見られます。
最高種別のミュースカイも停まる犬山遊園駅に到着。
かつては日本モンキーパークへモノレールが伸び、犬山へ観光の玄関口でした。
しかし、2008年にそれが廃止されると、その役割は犬山駅へ託します。犬山遊園駅の利用者は犬山線内ワースト2位にまで転落しました。
犬山駅を出発すると、左へ広見線が分かれ、続いて小牧線も離れていきます。
扶桑町内の駅となる、扶桑駅、柏森駅に停車します。
江南駅の目の前には、筆が立てられていました。
右手には布袋の大仏が見えてきました。
大仏の正面には踏切があって、警報灯がちょうど目元に重なるので、サングラスみたいになります。
2020年に高架化された布袋駅。引き込み線などもある2面4線の大きな構内です。
岩倉駅に到着。名鉄犬山線は近くにJR線が無く、名鉄が独占するドル箱路線になっています。ちょうど朝のラッシュ時間帯とあり、お客さんで混雑します。
北名古屋市の西春駅からは、県営名古屋空港(小牧空港)へバスが出ています。その役割の多くを2005年開港のセントレアに移しましたが、現在でもフジドリームエアラインズの拠点です。
名古屋市に入って最初の駅、上小田井駅。
上を交差しているのは名古屋第二環状自動車道、東京で言えば中央環状線にあたるでしょうか。
犬山線へ直通している地下鉄鶴舞線が、地中へ帰っていきました。この先では名古屋の上空を1両のディーゼルが駆け抜ける、城北線と交差します。
右手には名鉄犬山線と名鉄名古屋本線を直接繋ぐ、連絡線が分岐していきました。通常の営業列車がここを通ることはありません。
その後、名鉄岐阜駅からの名古屋本線が近づいてきまして、こちらの線路へ入ります。
庄内川を渡り、栄生駅に到着。右手には東海道本線と東海道新幹線の線路が数多く敷設されており、頻繁に列車がやってきます。
急行→普通 種別変更
名古屋の大都会を地下へ潜り、名鉄名古屋駅に到着。ここで列車に大きな変化が現れます。
名鉄岐阜駅から急行吉良吉田行きとして運行したこの列車。方向幕を見てみますと、急行から普通に種別変更しています。
突如として、最大両数である8両編成の普通列車が誕生しました。
普通列車なのでターミナル駅に囲まれて影が薄い、山王駅にも停まります。ナゴヤ球場が中日ドラゴンズの本拠地だった頃は、ナゴヤ球場前駅として球場アクセス駅の機能を持っていました。
JRのホームに挟まれた金山駅。ここから神宮前駅まで、名鉄で唯一の複々線区間へ入ります。
神宮前駅からは空港がある知多半島方面へ、河和線が分かれていきました。
次に停車する堀田駅は、真ん中に通過線がある新幹線型の配線です。
ここで3分ほどの停車時間。たしかに「普通」吉良吉田行きになっていることを確認します。
ここで、特急豊橋行きに追い抜かれました。この配線を活かして、真ん中の通過線を走っていきます。
4駅連続ドアカット
立派な8両編成の普通列車ですが、長編成になったことで弊害も生まれます。
次の呼続駅に停車。と思ったら、後ろ2両は踏切にかかった位置で停まってしまいます。
「ドアガヒラキマス」。いや、開きません。
「ドアガシマリマス」。いや、もう閉まってます。
しかも、これは呼続駅で終わりません。次の桜駅でも後ろ2両は閉まったままです。
ご覧の通り、後ろ2両から前6両へ車内で移動することはできません。そのため、手前の堀田駅では「呼続〜本星崎で降りる方は前6両へ」という案内を、放送に加えて、車掌が直接巡回して伝えます。
普通列車しか停まらないものの、2面4線構造の本笠寺でも…ホームは足りません。
普通列車は通常長くても6両編成なので、8両には対応していません。
本星崎駅まで4駅連続ドアカット。
急行から普通へ種別を変え、身の丈に合っていない立派な編成が来たので、このようなことが起きています。
凡人がFラン大に入ったら、自分が天才だと勘違いしたみたいな。
8両→4両解結 鳴海駅
続いて鳴海駅に到着するところ、「この先急行吉良吉田を利用する方は前4両に乗車」するよう放送が流れました。
名鉄岐阜駅から乗ってきた後ろ2両ですが、吉良吉田へ行くことはないのです。9104よさらば…。
8両編成は4両と2+2両に解結作業が行われます。
この作業中、7:53発の急行豊橋行きに追い抜かれました。
さらに吉良吉田へ行かない後ろ4両は、鳴海駅で終わることなく違う仕事を与えられます。
方向幕の回転があまりに長かったのでネタバレしますが、これは普通豊明行きになります。
普通→急行 種別変更
そして吉良吉田へ行く前4両、色々あって気づきにくいですが、普通から急行へ種別変更しています。
こんらんしてもわかりやすいよう、ひらがなでかいてくれています。
通しで乗ることはできない名鉄岐阜から吉良吉田、バトンを渡された前4両に乗り込みました。
次の停車駅、前後駅では特急豊橋行きに追い抜かれます。
豊明駅 特別停車
準急が標準停車駅の豊明駅ですが、ここで特別停車します。3面6線構造でありながら駅員さんはおらず、日本一大きな無人駅です。
ここには豊明検車支区があり、1,2番線ホームから繋がっています。
現在高架化工事が進められている知立駅。
名古屋本線豊橋方面の高架線はほぼ完成している状態で、あとは分岐点の線路を繋げるだけ。
2023年3月21日より高架線の、豊橋方面ホームがオープンします。残りの仮ホームも順番に高架化され、3階建ての要塞駅になる予定です。
知立駅到着時、向かいにいたのは特急須ケ口行き。
1日1往復の西尾線特急で、朝は西尾駅から後面展望を楽しめます。
将来的に高架線と繋げやすいよう、現在の線路は地上からだんだん登っていきます。
橋上駅舎化された新安城駅に到着です。
列車は名鉄名古屋本線から西尾線に入るため、一番右側のホームへ侵入します。
一番左に停まっている列車は、鳴海駅で解結中に追い抜かれた急行列車です。
消えた種別変更 急行→準急
この列車はかつて、新安城駅で急行から準急へ3回目の種別変更を行っていました。
しかし、2019年春のダイヤ改正で西尾線から準急が廃止されたので、急行のまま西尾線へ入ります。ちょっとだけカオス要素が減っちゃったんですね。
鳴海駅で追い抜かれた急行列車と同じ8:15発で、運が良ければお互い分かれていく様子を見られる場合も。
この列車は、急行列車ですが、普通列車しか止まらない北安城駅に特別停車します。
JR東海道本線と交差。徒歩圏内には安城駅があって、かつては安城駅と南安城駅を結ぶ、名鉄安城支線が伸びていました。
商店街の端に位置する、南安城駅で行き違いを行います。
通過している碧海古井駅の先には、東海道新幹線が交差します。
現在安城市内には三河安城駅がありますが、この場所も新幹線駅の候補地でした。
しばらくすると左手には観覧車が見えてきました。こちらは安城市制40周年を記念して整備された、堀内公園。
近くには堀内公園駅があります。元々は碧海堀内駅で、2006年には名鉄が廃止しようとした駅です。
これは駅設備更新時期に費用を抑えようとしており、「1日あたりの乗降客数が300人以下の駅」だったため。
しかし、地元住民の存続署名と、駅舎の改修費1億3千万円を安城市が負担したことで、今でも残されています。
列車は2008年に高架化された、桜井駅周辺へ。
すぐ近くには大きなショッピングセンターがあり、安城市の中でも新たに開発が続けられている地域です。
次の南桜井駅までは、ひと区間だけ複線化されています。この駅は2008年に開業した、名鉄の中で一番新しい駅。
田んぼの中の小駅に見えるかもしれませんが、名鉄西尾線内で、新安城、西尾に次いで3番目に利用者の多い駅。
近くにアイシン、イノアックの工場があるためで、そこへの通勤者が大勢利用されるのです。
南桜井駅からは単線に戻り、米津駅で行き違いが行われました。安城市から西尾市に入っています。
西尾市中心街に入りまして、高架駅の西尾口駅を通過。
駅間は0.8kmで、駅通過時に西尾駅のホームが見えている程の近さです。
西尾駅の中心駅である、西尾駅。1面2線の島式ホームで、1日1往復だけ特急が運行されます。
名鉄西尾・蒲郡線は廃止危惧路線として知られています。
その対象は、西尾線(西尾〜吉良吉田)と蒲郡線(吉良吉田〜蒲郡)のことです。
西尾が約1億5000万、蒲郡が約1億を毎年負担することで存続しており、2025年までの維持は決まっていますが、いつまで残るか分からない状況です。
そんな廃止も考えられる区間に入りまして、福地駅に到着。駅舎は片側だけで、構内踏切により繋げられています。
名鉄東部交通バスの車両が集まる先、この空き地は鎌谷駅跡です。先の堀内公園駅と同時期に廃駅対象となり、2006年に廃止されました。
上横須賀駅で反対方向の列車と行き違います。
この先にも同時に廃止された三河荻原駅跡があります。駅間距離が長くなったためか、かなりスピードを上げていました。
08:45 吉良吉田駅 着
そして774列車の終点、吉良吉田駅に到着しました。
2時間かけて名鉄の端から端まで結んだ列車、実際に乗ると結べておらず、あまりに変化が多すぎて面白かったです。
列車はそのまま急行弥富行きとして、折返し発車しました。
9104とまさかの再会!
さて、実はここで終わらないというのがまた面白いところ。
続いてやってきた2+2両編成の回送列車ですが、なんだか見覚えがあります。
後ろ2両手前側の番号を見てみると…。
名鉄岐阜から乗り込んだ、9104!?
鳴海駅でお別れしたはずの列車ですが、ここで再会することになりました。
鳴海駅から普通豊明行きになったこの列車は、新安城駅まで回送。
今度は新安城駅から急行西尾行きとして運行しまして、西尾駅到着後は吉良吉田へ回送されてきたのです。
一度生き別れたと思った列車が、結局は姿を変えて目的地にやってくる。なんとも良い締め方です。
今回ご紹介した774列車ですが、2023年3月18日日に行われるダイヤ改正で大きな変化があります。
各務原線は全列車が名鉄岐阜〜三柿野・犬山の折り返し運転になるため、新鵜沼駅始発となるのです。
そのため、「始発時点の車両が丸々終点まで行かない」という要素が立ち消えてしまいます。ぜひ残り少なくなった時間、面白すぎる774列車を楽しんでみてください。
今回もご覧いただき、ありがとうございました。
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