房総半島を横断する鉄道路線の一端、小湊鐵道は内房線の五井駅から出発します。
JRのホームと並んで位置しますが、この鉄道会社は日本一レトロな雰囲気を残している路線と言っても過言ではありません。
隣接する車両基地を見てみますと、クリームと朱色が半々になった車体が並んでいます。JR東日本から来たキハ40はもはや貴重さを感じさせず、令和の時代とは思えない光景です。
そのすぐ近くには2021年3月にオープンしたカフェ「こみなと待合室」。五井駅周辺に列車を待てるお店が無いことを受け、小湊鐵道が直営で営業しています。
JR東日本と改札が一緒なので、小湊鐵道利用者は有人改札をスルー。
改札内でまっすぐ先に進むこととなります。跨線橋ではお弁当販売も行っていて、小規模私鉄でありながらかなり積極的な姿勢を見受けられました。
ホームへ降りると、停車中なのは小湊鐵道のトロッコ列車「里山トロッコ」です。今回はこちらの列車に乗車しまして、ゆっくりレトロな小湊鐵道を楽しんでいきたいと思います。
小湊鐵道のホームに降り立つと、ここに結界が張られているかのような空間がありました。
駅名標や広告などは古いものばかり、大きな主要駅でありながらここまで残っているのは凄いです。
かつて使われていた跨線橋も閉ざされたまま、看板の字体も古さを感じます。
里山トロッコ号は2015年に運行を開始、これらは新造車両となっています。
けん引するDB4形機関車は蒸気機関車の見た目をしていますが、あくまでDB4形ディーゼル機関車です。
蒸気機関車はその見た目から集客力はあるものの、整備に費用がかかります。風貌による一般客の取り込みと、収支のバランスを上手く天秤にかけた結果であり、経営戦略が良く練られていることが分かります。
トロッコ指定券は600円、事前予約は30日前から前日までで、当日はプラットホーム上で購入できます。
真ん中部分の2,3号車は展望車となっており、開放的にトロッコの旅を楽しめます。
ただしこの日は当日切符を購入したので、1,4号車の普通車へ。こちらは窓が付いていますが開けられるので、十分満足できます。
運転席を見てみると、速度メーターが60km/hまで。こんなの見たことないですね(笑)
9:22 五井駅 発
家族連れや年配の方を中心に載せて、列車は五井駅を出発しました。
アルプスの牧場のチャイムから始まりまして、走行中は自動放送による観光案内がされます。
最初の上総村上駅で、普通列車のキハ200形と行き違い。国の登録有形文化財にも指定された駅舎とマッチしており、これ以上タイムスリップという言葉がふさわしい光景は無いでしょう。
駅東側には住宅街が広がっており、市原市役所も駅1km圏内です。
ホントならここまで家が立ち並ぶはずだったんだろうなという、区切られた空き地も広がっていました。
千葉中央駅~ちはら台駅を結ぶ京成電鉄千原線、最終的にはここ海土有木駅まで至る計画です。まだ計画は凍結されておらず、2019年に工事施行認可の申請期限延長を申請、有効期限が2029年10月になっています。
この駅舎も登録有形文化財に指定されていますから、このレトロな空間に新線がやって来るという凄い場違い感になりそうです。
もう登録有形文化財に指定されているのは当たり前、正直廃駅と間違えられてもおかしくない見た目です。
第一養老川橋梁を渡りまして、その振動が直に伝わってきます。
光風台駅は1976年に開業した、小湊鐵道では一番新しい駅です。
光風台団地の整備がすすめられたことを受けて駅を設置。これまでの駅とは構造全く違います。
これでちょっとした地方私鉄ぐらいの雰囲気にはなったでしょうか。富山地方鉄道とかに似ています。
沿線では住民の方々が手を振ってくださいます。
馬立駅の花壇ではお手入れもしてしてくださっており、住民の方に支えられていることが実感できます。
2019年9月9日には房総半島台風、10月には大雨でかなり大きな被害を受け、全線運休になっていました。それによるものかは分かりませんが、今後の災害に備えた工事が行われているようです。
牛久地区には市原高校があって、ここへの通学需要も大きいです。
9:59 上総牛久駅 着
展望台的なところで写真撮影されている方もいらっしゃいました。
後続で五井駅を出発して来た、普通列車に追いつかれました。これでトロッコに接続することもできます。
ここでは是非停車している間に、駅の様子を見ていただきたいところです。まるで映画のセットのように、古い看板が綺麗なまま残っています。
駅舎内にはぼんやりしたランプが吊るされていました。
駅のベンチでは猫がお休み中。。。
駅舎内には「#牛久にカフェをつくりたいんだ」という立ち売りコーヒー屋さんがあります。
10:16 上総牛久駅 発
のぺっと五井駅への発車を待つ普通列車とお別れして、更にお客さんを載せたトロッコが出発します。
移動手段の中心は車でありながら、駅周辺は結構栄えている印象です。
どんどん山へ入っていき、トロッコの名に相応しい区間です。天窓になっていて上からも光が差し込みます。
上総川間駅の近くにはスーツケースが固められた謎の壁が。
これはキューバ人アーティスト、ジョアン・カポーテさんによる「房総里山芸術祭 いちはらアート×ミックス」での作品。ナニコレ珍百景でも紹介されたそうです。
南総鉄道は茂原駅から上総鶴舞駅まで線路を敷設する予定でした。房総半島の中央部には予想以上に鉄道網の計画があったんですね。
現在使われていない島式ホームですが、まだ線路が残っています。
上総久保駅には沢山のカメラを持った方々。
駅に咲き誇るイチョウと絡めた写真を狙う撮り鉄の方たちです。
ものすごく大きく立派な木で、周りに何もないのがまた良いですね。
高滝湖グランピングリゾートは、おしゃれなテントで自然を楽しむ体験ができる施設です。室内を基本としたキャンピングで、現代に合わせたキャンプの形になっています。
こども園の子たちもまた、こちらへ手を振ってくれます。
高滝駅からは高滝ダムへ行くこともでき、毎年8月には花火大会が行われます。
左手にはそのダムが作り出した、高滝湖が広がっていました。
里見駅では行き違いのためしばらく停車します。
ここではお弁当や焼きそば、お酒などが販売されていました。多くの方が列車を降りてかなりの人気。車掌さんまで買っていらっしゃいました。
こちらは里見駅限定焼き豚弁当。懐かしの温かいお茶もあります。
甘いタレにじゅわっと柔らかさがある豚が最高です。喜動房倶楽部さんが駅喫茶を営んでいる他、このように産直品やお弁当を売っています。
2013年に小学校4校が近くの中学校へ統合、小中一貫校加茂学園が開校したことにより、里見駅は列車通学に対応する必要がありました。
これと同時に交換設備が復活しており、今ではそれを活用した物販販売が行われているのです。
里見駅からは1kmほど砂利採取線が伸びていた過去があり、その跡を探訪することもできます。
森で隠れていた平地を見渡せると、やっぱり素晴らしいですね。
飯給駅前には2012年、Toilet in Nature(世界一大きなトイレ)が設置されました。
広さ200㎡の用地を杉丸太で囲み、その真ん中に全面ガラス張りの個室トイレを備えています。これは女性専用になっているので、すぐ隣に普通のお手洗いが建てられました。
飯給駅は相当な難読駅名、初見ではまず読めません。
列車は遂にトンネルへと入っていきます。ひんやりと冷たい風が心地よいです。
カーブ区間で、先頭機関車が走っていく勇姿を見るのも、窓が開く客車の楽しみの一つ。蒸気機関車だと煙が入ってきますが、ディーゼル機関車なのでそれもありません。
上総大久保駅ではイルミネーションの設置作業を行っていました。
待合所には地元の小学生に描かれた『となりのトトロ』の絵が沢山です。
トラスのない鉄橋が歪んでいたりと結構なスリル。もちろん安全性に問題は無いんでしょうけど…(笑)
11:22 養老渓谷駅 着
トロッコならではのゆったりした振動に、顔をかすめていく風。更に小湊鐵道各駅のレトロな雰囲気がマッチしすぎていました。
かなりマイナーな観光列車かと思いますが、結構オススメです。
駅周辺ではソフトクリームやお惣菜の販売がされていました。ここから養老渓谷へバスが出ていますが、このまま上総中野駅へ向かう普通列車を待つ間も、ご飯を食べたりして過ごせます。
ここからはひと区間だけ普通列車に乗車。
トロッコ列車は上総中野駅の一駅手前までの運行で、そのまま五井駅へ折り返してしまいます。
車内に入ってみますと、未だにこんな列車が走っているんだと驚かされます。戦前からの路面電車みたいな匂いがプンプン漂っていました。
山へ入っていく列車ですが、中々進んでくれません。どうやら雨で濡れた落ち葉で空転してしまっているようです。
座席下には滑り止めの砂が入っており、車掌さんが線路上にそれを撒いていました。これで摩擦を生じさせて、登っていくんですね。
何とか山を越えまして、いすみ鉄道と接続する上総中野駅に到着しました。今回は列車が遅れたため待ってくれませんでしたが、普段ならそのまま乗り継ぐことができます。
東京からのアクセスも良いですから、非日常を感じるにはピッタリ。ぜひ休日の旅行にいらっしゃってみてください。
今回もご覧いただき、ありがとうございました。
-
【旧国鉄木原線】いすみ鉄道急行&久留里線で行く 未成線歩いて房総半島横断
おはようございます。内房線の快速木更津行きに乗車中です。 関東地方を形作っているとも言える房総半島、これを横断する鉄道路線は、小湊鐵道といすみ鉄道を乗り継ぐルート1つだけになります。 & ...
続きを見る