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【なぜ赤字幹線に?】美祢線がローカル線になった理由は貨物廃止にあり![〇〇のはなし(3)]

2023年1月13日

  

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ここは山口県西部の街、山陽小野田市は厚狭駅です。

山陽新幹線の中で唯一ひかり号が1本も停まらない駅であり、駅舎も新幹線停車駅とは思えないような国鉄時代からのコンクリート駅舎です。

 

時刻表を見てみると、山陽新幹線は真っ青。在来線は山陽本線の他、美祢線の乗換駅でもあります。

 

そのため、駅構内もかなり広々したものです。駅舎に直接面する1番線ホームには、美祢線のキハ120形気動車が停車中。

 

美祢線は厚狭駅から長門市駅を結ぶ路線。山陽と山陰を結んでいるため陰陽連絡線みたいですが、かつて石炭や石灰の貨物輸送を担いました。

現在はディーゼル列車が行き来するだけのローカル線、かつての繁栄を色濃く残す、美祢線の様子をお楽しみください。



ローカル線と化した幹線

美祢線は、料金計算上は東海道本線などと同じ「幹線」として括られています。しかし、現在はJR西日本が収支を発表している赤字路線です。

路線全区間の厚狭~長門市において、赤字額4.6億円、営業係数904円、輸送密度366人/日(2019年~21年度)。いつ廃止されてもおかしくはない状況となっています。

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この日は2両編成での運行でしたが、ワンマンのため比較的集中する1両目でこの状況。平日の通学時間帯に乗ると高校生の生徒さんがかなりいらっしゃいますが、それ以外ではかなり厳しいです。



08:34 厚狭駅 発

山陽新幹線の立派な高架橋に、貨物列車が行き交う山陽本線から離れていきます。

 

単線の美祢線は住宅街を抜け、田んぼの広がる郊外へ北上しました。



残る貨物運行の設備

簡単なプラットホームが見えてきましたが、ここは鴨ノ庄信号場です。美祢線の美祢駅~宇部線宇部港では、かつて石炭・石灰石を輸送する多くの貨物列車が走っていました。

 

こういった列車が駅以外の場所でも行違えるように、信号場が設置されたのです。現在ここで行違う列車は設定されておらず、一線スルー化されたポイントを速度を落とさずに走っていくだけです。

 

最初の停車駅は湯ノ峠駅。その名前の通り、近くには湯の峠温泉があります。

 

美祢線の途中駅は、基本的に行き違いできる駅ばかり。有効長と言われる並ぶ線路の長さも非常に長く、これは長編成の貨物列車同士でも行き違いできるようにするためです。

1997年に廃止されましたが、この先に松ヶ瀬信号場もありました。



平成22年梅雨前線豪雨被害

ここから美祢線はカーブが連続、山陽小野田市から美祢市に入ります。

 

2010年にこの地域を襲った平成22年梅雨前線豪雨で、厚狭川の氾濫により美祢線も被害を受けました。

 

特にここ第三厚狭川橋梁が流出し、路盤流出も起こって全線不通となっています。この時に山口県知事が「JR西日本の副社長から廃止をしたい路線と位置付けているとの発言があった」とされており、沿線自治体は利用促進に積極的に取り組むこととなりました。

 

路線復旧に際しては、鉄橋のガーター橋からトラス橋への格上げ、河川改修費として、全体事業費(約6億6,773万円)の約4分の3を国および山口県が負担しています。

 

ぜひ厚狭駅とセットで覚えたい難読駅、厚保(あつ)駅で普通列車と行き違いました。

昔ながらの駅舎には、JR美祢線災害復旧10周年の横断幕が掛かっています。



山口県といえば、夏みかん色のガードレールです。

1963年の山口国体開催にあたり、山口県ならではのものを作ろうと、県道のガードレールを県特産の「夏みかん」にしました。今ではかなり広範囲の道路で見られるようになっています。

 

美祢線の駅は昭和初期からの歴史を感じさせる構造物ばかり。四郎ケ原駅もまるで個人宅のような見た目です。



石炭輸送を担った大嶺支線

現在の美祢線の最初の開業区間は1905年、山陽鉄道の厚狭駅~大嶺駅でした。南大嶺駅〜大嶺駅は美祢線の支線として存在していましたが、1997年春に廃止されています。

 

大嶺支線は駅舎と接する1番線ホームから発車していました。路線廃止により、美祢線は島式ホーム部分だけを使うことに。

 

わざわざ跨線橋を渡るのは面倒なため、大嶺支線が発着していた線路部分を埋めることで、ホームへの行き来を楽にしてくれています。

 

大嶺支線はしばらく美祢線と平行したまま北上。

 

少し離れ始めるところでは小さな橋梁が並んでいて、廃線跡ということが分かります。

 

山陽鉄道は大嶺炭田から石炭の貨物輸送のため、厚狭駅〜大嶺駅の鉄道を開業しました。

 

かつては日本を代表する無煙炭の採掘地だった大嶺炭田。しかし、資源の枯渇や品質低下により1977年に閉山し、1979年に再度露天掘りが復活したものの、2002年に再び閉山しています。

大嶺支線の貨物列車は1984年に廃止、旅客輸送も1997年に廃止されました。



日本一の私道に移行した石灰輸送

美祢線の中心駅となるのが、ここ美祢駅です。山口県を代表する秋芳洞・秋吉台へもアクセスできます。

 

これまで全ての駅で交換可能な2線が使用されていましたが、主要駅なのに現在1面しか使っていない状況。運用部分の集約化という点では良いですが、表面的にはチグハグに感じてしまいます。

 

美祢駅を発車すると線路がたくさん並ぶ、操車場が見えてきました。これら線路の奥からは、かつて美祢線へ石灰貨物を送った宇部興産専用線が合流してきます。

 

この専用線は、宇部興産伊佐セメント工場まで2kmほどの長さでした。現在でも煙が立っており、工場の運用はしています。

 

石灰石は美祢線を通って、宇部線の宇部港駅まで輸送していました。しかし、国鉄時代ストライキによる不安定な輸送により、宇部興産が自前で私道を建設。日本一長い私道と言われる宇部興産専用道路へ切り替わり、この区間の貨物列車は1998年に廃止されました。

北側でも、中国電力三隅火力発電所がある山陰本線岡見駅へ貨物列車が走っていましたが、こちらも2014年に廃止されています。

 

重安駅近くで左手に見られる白い大きな岩、あのむこうには石灰石の採取場があります。

 

ホーム上の方面を示す看板も、青色に白文字。どこかの地方私鉄のようなレトロさが残されています。

 

ここまで田んぼの中を走ることが多くあったのですが、白くなっている所を沢山見かけました。

流石に石灰が運ばれてという訳ではなく、単純に霜が降りているだけだと思いますが、中々溶けてくれないようです。



山陽・山陰の境界

於福駅から次の渋木駅は9.9km離れており、これは美祢線で一番長い駅間距離です。

 

これだけ長距離に渡って単線区間が続きますが、途中に行違い可能な信号場は設置されていません。

1つの駅間に2つも信号場があった、美祢駅より南側における、かつての石炭・石灰輸送の繁栄度合いが分かります。

 

美祢線最長のトンネルに入りまして、ここには山陽と山陰の境となる分水嶺があります。

 

美祢線の最高速度は85km/hであり、直線のトンネルを80km/hで駆け抜けていきます。

 

山陰地方にでてきました。於福駅〜正明寺駅(現・長門市駅)は1924年の開業、全線開通により陰陽連絡が可能となりました。

 

さっきまでの厚狭川は瀬戸内海に注いでいましたが、こちら深川川(音信おとずれ川)は日本海へ注ぐことになります。

 

長門市に入りまして、渋木駅に到着です。



沿線に広がる温泉街

工業における貨物輸送の役割が大きい美祢線ですが、北部には立派な温泉街が広がっています。山口県を代表する温泉、長門湯本温泉です。

 

室町時代に開湯した歴史ある温泉、江戸時代には長州藩藩主が湯治に来たこともあります。

 

さらに、美祢線長門湯本駅の開業により「恩湯」「礼湯」以外の浴場が開かれ、温泉地として発展しました。

 

現在でも長門湯本温泉、俵山温泉への玄関口ですが、道路交通も発達して駅の地位は落ちてきています。

 

2022年7月には西鉄バスが、福岡天神〜長門湯本温泉直行の高速バス「おとずれ号」を運行開始しています。この温泉街の人気度合いが分かるものです。

 

次の板持駅は1958年に開業した、美祢線で一番新しい駅です。停留所型の棒線駅という点からも、開業時期が異なるのは明らか。ようやくローカル線らしい駅が現れたと言っても良いぐらいです。

 

温泉街の中も流れる、音信おとずれ川を渡ります。

湯女が口に出せぬ想いを託した恋文「音信おとずれ」を、川に流したことが由来とされます。先程の高速バスの名前は一般募集から選考され、「おとずれ号」になりました。

 

そして日本最長の在来線路線、山陰本線が見えてきました。



09:37 長門市駅 着

鉄道における交通の要衝となっており、萩市と並ぶ日本海側中枢の街です。

 

貨物輸送が無くなり、現状には見合わないハイスペックな設備を残す美祢線。ローカル線として運行を続けましたが、かなり厳しい状況となっています。

 

カルスト台地周辺の観光時に是非利用して、その際には車窓から美祢線の歴史を感じていただければと思います。

 

今回もご覧いただき、ありがとうございました。

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