山陽本線広島地区を走行中、こちらはセノハチと呼ばれる山道です。
蒸気機関車の時代より難所として知られ、現在でも貨物列車は前後に電気機関車を付けて、後ろからも押し上げられます。
歴史ある山道を越えてやってきたのは、瀬野駅です。
セノハチは瀬野駅と八本松駅の間にあることから、頭文字を取って名付けられました。
広島市の通勤圏であるこの地にはニュータウン「スカイレールタウンみどり坂」があり、瀬野駅からニュータウンへ向けて不思議な乗り物が整備されています。
まるでロープウェーやゴンドラに見えるこの乗り物、実は索道ではなくれっきとした鉄道なのです。
その名も「スカイレールサービス広島短距離交通瀬野線」。ここに住まわれている方々の足として、25年間走り続けました。
残念ながら2024年春をもっての廃止が決まっているこの路線。その理由にも触れつつ、唯一無二のスリル溢れる鉄道をお届けします。
2面4線と広めの構内になっている、山陽本線瀬野駅。
北に向かって一筋のレールが伸びており、ニュータウンは山の向こう側にあります。初見であれを鉄道だと思う人はいないでしょう…。
乗換案内にスカイレールの文字は無く、出口だけが示されていました。
改札を出て右手の北口を出ると、みどり口駅が隣接しています。
瀬野駅と隣接する一方で、駅名は異なります。
日中の運行本数は15分に1本ですが、平日朝夕になると7分に1本と倍以上の間隔です。
しばらくすると山からスカイレールの車両が降りてきました。
普通鉄道どころか路線バスと比べても輸送力に乏しく、需要に合わせた増便が必要なのは明らかです。
まずはゲートをくぐるべく、自動券売機へ。唯一の有人駅となっており、窓口も営業しています。
料金は均一で170円です。
QRコードを読み取り場にタッチして入る方式。ゆいレールや北九州モノレールなどと同じです。
ほかにも独自導入の交通系ICカード、SkyRailPassで定期券と回数券の利用ができます。
ホームへ上がると一面ガラス張り、鉄骨のレールを間近で見ることができます。
懸垂式モノレールの一種で、安全のため完全に締め切る方式のホームドアが採用されています。
廃止が決まり鉄道ファンが訪問することも増え、撮影についての注意喚起がなされていました。
また、朝の混雑がかなりひどいようで、臨時便も運行しているとのことです。
スキーのゴンドラと同じような感じ、行き止まりではUターンしての入線です。
エレベーターの扉みたいなホームドアが閉じられています。
到着すると扉が開きまして、乗り込むことができます。
座席は8席用意されており、進行方向に面したボックスシートみたいな構造。
天井には四角くパイプが取り付けられ、3つずつ吊り革が設置されていました。
空調も効いており、暑かったこの時期では天国でした。
車椅子の方でも利用できるよう、ベルトが備えられています。
実際に車椅子で乗車の方もおられ、職員さんが添乗して板を渡し、乗降なさっていました。
一見ゴンドラのように見えるスカイレールの車両。
駅ではその特徴について詳しく紹介してくださっていました。
車体だけでなく、台車にも注目されているのが重要。
モノレールの単両バージョンのようなもので、鉄骨にがっちり固定した軌道。そのためロープウェーとは違い、強風にも強くなっています。
運行システムについても紹介されており、ロープも使って循環しているみたいです。
一方で、こうした新交通システムは他に採用例が無く、メンテナンス費用を抑えることができません。
これも一つの赤字要因として、廃止へ追い込まれることになりました。
また、車両の定員は37名、ラッシュ時には7分間隔で運行しているとは言え、そもそも公共交通機関として黒字になる作りをしていないように思います。
おそらくですがニュータウンの目玉にして、入居率を上げる役割を担っていたのでしょう。
それではいよいよ、みどり口駅を出発です。
丘を駆け上がっていく、いきなりの難所。
普通鉄道の鉄輪では絶対に登れない勾配ですが、スカイレールはスイスイ越えてしまいます。
その先には道路を挟んで一軒家がずらっと並び、その真ん中をスカイレールの柱がズンズン歩みます。
この通りカーブもできて、地上に合わせた軌道の敷設が可能です。
唯一の途中駅である、みどり中街駅に到着。ここで向かいの便とすれ違うことになります。
これまでより一段上の住宅街へ、盛り土の坂に軌道が浮かんでおり、勝手にスリルを味わわされます。
まもなく終着駅という段階で、お城の石垣へ挑むようです。
遺跡のような階段や壁のある広場、そのど真ん中を闊歩していきます。
正面に一軒家が広がって来た所で、終着駅のみどり中央駅に到着です。
到着すると今度は山を降りるため、くるんと回って反対側へ。
完全にスキー場のゴンドラを見ているようですが、がっちりレールを挟む丈夫な台車は、やはり鉄道らしく立派になっています。
走ってきた軌道をずっと下へ辿ってみると、瀬野駅はあんなに小さく。
これだけの高低差を登ったとは信じられず、完全にアトラクションと化しています。
みどり中央駅は無人駅で、降りた後は改札を通る必要はありません。ここまで遊園地と同じシステムです。
駅舎の真ん前には道路が横断しており、その向こう側には住宅街。
あまり駅前という感じは無く、スカイレールを降りたらすぐ歩いて家へ行くみたいです。
スカイレールタウンみどり坂は、積水ハウスと青木あすなろ建設が整備したニュータウン。スカイレールは入居開始翌年の1998年に開通しました。
みどり口駅にあったニュータウンの地図ですが、スカイレールに沿って区画が広がっています。
入居が進んで人口は増加しており、年少人口比率も高いのですが、それゆえ駅から遠い地区も生まれてしまいました。
鉄道廃止後は電気バスに転換予定、カバーしきれていなかった地区まで公共交通機関が行き渡ります。
今度は終着駅のみどり中央駅から山を降りつつ、スカイレールの軌道を辿ってみることにしました。
最後に登っていたのは、みどり坂中央公園だったそうです。
スカイレールはもはや公園の一部、さらに生活にも溶け込んでおり、ここで遊んでいた小学生の子供たちも駅へ乗りに行ったりしていました。
お城の櫓跡みたいな所からは、坂を駆け降りていくスカイレールの姿。
その下では道路と立体交差しています。こんなの公道の頭上にあっちゃオカシイって!
こちらは2011年ニュータウンに開校した、広島市立みどり坂小学校です。
それまでここに住む小学生の児童はスカイレールに乗って、広島市立瀬野小学校へ通学していました。当時は専用の便もあったそうです。
しかし、入居者増加に伴いここに小学校ができたので、その需要も消滅してしまいました。
更に下っていきまして、盛り土の際の区間へ。
外から見ると凄いところ走っていたんだという実感が露わになります。
みどり中街駅を過ぎ、スカイレールは道路の真ん中へ。
住宅街の中をゴンドラが浮遊しているようで、SF世界の近未来感を目の当たりにできます。
みどり中街駅だけでなく、途中でもすれ違い。もしかしたら臨時便かもしれません。
そして最後の下り坂、ニュータウンと従来の街を橋渡しているようで、大迫力です。
みどり中街駅まで戻ってきました。
全長1.3kmの短い路線なので、唯一の中間駅となっています。
階段を登ってコンコースへ、各方面のホームに向かって階段が分かれます。
エレベーターも設置されているので、バリアフリーはしっかり解決。
改札はそれぞれのホーム上に設けられていました。
最後にみどり中央駅より、鉄道ジェットコースターを降りていきましょう。
こんなスリル満点の超急勾配、ほかじゃ味わえません。まぁまぁな遅さがこれまた怖い。
最大のスリルが、みどり口駅へ降りるところ。ギュインっと反ってる感じがします。
無事地上まで送り届けてくれて、再び山の上へ飛び立つ準備です。
こちらのスカイレールサービスみどり坂線は、2024年4月末廃止予定。
鉄道ファンに限らず、アトラクションとして大満足間違いなしです。心からオススメできる鉄道、ぜひ一度このスリルを味わってみてください。
今回もご覧いただき、ありがとうございました。
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