今回は1日4本しか列車が来ない、関東の秘境路線へ向かいます。
廃線目前とも言えるような列車本数。そんな区間があるのは群馬県の吾妻線です。
長野原草津口駅までは、特急草津・四万が走りますが、それより先はローカル線。
特に最後の一区間、万座・鹿沢口駅〜大前駅だけは、1日4本という閑散区間になっているのです。
なぜこれまで廃止されなかったのか。その謎にも触れつつ、吾妻線を乗り通してみたいと思います。
8:53 高崎駅 発
今回乗車したのは、高崎駅から1本で大前駅まで行ける列車。立ち客も沢山いるくらい、比較的多くのお客さんが乗っておられました。
しばらくは上越線を走行。新前橋駅には高崎車両センターが隣接しています。
ここで県庁所在地の前橋市中心部を経由する、両毛線が分岐していきました。
右手に見えてきた大きな建物は、群馬県庁舎。
高さ153.8mで、群馬県で一番高い建物になっています。
かつて新潟方面への特急列車が行き交っていた、主要幹線。
上越新幹線へその役割を移し、かつて特急の通過待ちを行なっていた線路も、一部が剥がされています。
群馬県を代表する山、赤城山がゆったりと裾野を伸ばしていました。大の字で寝そべっているみたい。
特急列車がほぼ姿を消した上越線ですが、貨物列車にとっては日本海と太平洋を結ぶ幹線。新潟から東京への貨物列車とすれ違いました。
上越線の旅は渋川駅まで、ここから本題の吾妻線に入ります。
渋川駅からは伊香保温泉へバスが出ており、多くの方が降りられました。
車内で目立っていた鉄道ファンの方々も、こちらで降りられてしまいました。
吾妻線が目的かと思っていたのですが、この日は上越線を走る「SL敷島・沼田百周年」の運行日。こちらの撮影を目的とした撮り鉄の方々でした。
それでも吾妻線が目的の、乗り鉄の方もたくさん。
18きっぷシーズンの週末で、かなり人気のようです。
赤城山と並んで上毛三山のひとつ、榛名山を迂回するようにして山の中へ。
金島駅を出発したところで、上越新幹線と交差します。
共にに約15,000mの榛名トンネルと中山トンネルに挟まれている中、僅かな地上区間で吾妻線と交差。建設時には金島駅近くから引き込み線が設けられ、資材搬入が行われていました。
新幹線の高架を潜り、祖母島駅に到着。秘境駅のひとつに数えられることもある、小さな駅です。
その先で渡るのは、第一吾妻川橋梁。
鉄橋の隣には歩行者が通れるスペースがあり、列車のすぐ横を歩くことができます。中々スリルを味わえそうなところですね…。
小野上駅のホーム向こう側には、石の積まれた山があります。
ここでは安山岩が採掘されており、線路の下に敷かれる小石、バラストに使われています。
群馬県エリアのバラストはここで取られ、各方面へ輸送されているそうです。
吾妻線は全線単線の路線、ここで反対方面の列車と行き違いました。
この日は3月の最終日、小野上駅を出発したところでは桜並木が見られます。
次の小野上温泉駅は、1992年に開業した請願駅。
地元利用者の利便性向上のため設けられたほか、駅周辺には小野上温泉ハタの湯があります。
吾妻川と草生した氾濫源を眺めつつ、麗らかな春の空気を感じられる車窓。
都市部から一足伸ばして旅へ出るのに、ぴったりの場所です。
外壁やルーバーでリニューアルされていながら、錆びついた改札のラッチに歴史を感じる待合室。
パッと見分かりませんでしたが、実は貨車を改造したものらしいです。
列車は市街地に入り、中之条駅に到着。
2023年3月に吾妻線を走る特急草津は、特急草津・四万へ改称されました。
この駅にも停車しており、四万温泉の最寄駅です。ここから路線バスに乗り換えとなります。
駅舎に面したホーム屋根には、吊るし柿が現れます。秋の風物詩として知られる光景です。
四万川を渡り、中之条町から東吾妻町へ。
国道145号と線路が近づき、ロードサイド型店舗が目の前に並ぶようになりました。
そんな中にある東吾妻町の中心駅、群馬原町駅。
2017年3月から特急通過駅になってしまいました。さらに駅も無人化されています。
列車は再び山の中へ。ゴツゴツした岩肌が特徴的な、岩櫃山を望めます。
その最寄駅となっているのが、郷原駅です。
山へハイキングに向かう方も多いようで、群馬原町駅と同じくらい降りる方がいらっしゃいました。
近くにある厚田ICから4kmほど、国道145号の吾妻西バイパスが始まります。
2024年3月20日に開通し、撮影当時できたばかりでした。
先ほどから見えている吾妻川は、魚も住めない日本屈指の酸性河川でした。
これを中性にすべく建設されたのが、1965年に完成した品木ダムです。品木ダムや草津中和工場などによって、世界初の河水中和事業が行われました。
吾妻線といえば、八ッ場ダム建設に伴い線路が付け替えられたことでも知られています。
岩島駅から長野原草津口の線路がダム湖に沈むためであり、線路は山をトンネルで貫く形へ変更。2014年に切替が行われ、路線長は0.3km短縮しています。
岩島駅を出まして、いよいよ新線区間へ。
線路付替えから10年。ちょっとした新線ではと思ってしまうような、立派な高架線です。
ぐんぐんスピードを上げて、八ッ場トンネルの中へ突っ込みます。
トンネルの長さは4,489m。現代の土木技術を駆使した、新鮮にふさわしい構造物です。
ちなみに旧線には日本一短い鉄道トンネル、長さ7.2mの樽沢トンネルがありました。
現在も水没しておらず、線路を活用した吾妻峡レールバイクアガッタンで、通ることもできます。
トンネルを抜けた先、川原湯温泉駅に到着。
旧線上にあった川原湯温泉駅はダム湖に沈んだため、新線上に新しく設けられました。
真新しいホームで3分ほど停車し、反対方向の列車と行き違います。
駅の近くにはキャンプ場があり、隣接施設には温泉も。アクセスも非常に良くて気軽に楽しめそうです。
国道145号を見ながら、ダム湖と化した吾妻川を渡ります。
周辺の街は山間部に似合わない新しさで、完全に一から作られた様子を見て取れます。
旧線跡と合流しつつ、長野原草津口駅に到着です。
日本を代表する温泉郷、草津温泉の玄関口。
座席が全部埋まるくらいには混雑していた車内。ほとんどの方がここで降りて、各車両7,8人残った乗客は9割鉄道ファンの方でした。
ここから草津温泉へバスが出ており、普通列車でも乗換案内が行われます。
特急草津・四万が来るのは、長野原草津口駅まで。ここからは普通列車しか走りません。
駅を出発してしばらくすると、右手に廃線跡が見えてきます。
こちらは太子線の廃線跡、日本鋼管群馬鉄山から鉄鉱石を運んでいました。
1963年に鉄山が閉山し、1966年に貨物廃止。1971年に路線が廃止されました。
現在でも終着駅の太子駅跡では、鉱石積み出しのホッパーなどが保存されています。
割と大きな駅になっている羽根尾駅では、かつて貨物取扱が行われていました。
現在では線路2本の交換可能駅でしかありませんが、かつてはさらに4本の線路が並んでいました。
ホームから駅舎へは地下通路を通る必要があり、今は無き線路を渡らずに済む導線が確保されていました。
これら線路は2018年ごろに撤去されていますが、架線柱の横幅や土地の広さがかつての繁栄を伝えてきます。
羽根尾駅の前にある交差点は、全国的にも珍しい国道3起点の地です。
国道144号・国道145号・国道146号がこの一点から始まっています。
長野原草津口駅から先は、1971年に開業した区間。
これまでよりも直線的に線路が敷設されています。
そのため新線区間ほどではないものの、全体的に速度が出ている区間が多かったように思います。
嬬恋村へ入りまして、川の向こう側には市街地が広がります。
その中には村立東部小学校と嬬恋高等学校が位置していました。
その最寄駅になっているのが、万座・鹿沢口駅です。
かつて特急草津の終着駅はここでしたが、2016年に定期運転が終了。臨時特急列車の乗り入れも2017年度以降ありません。
この駅は万座温泉と鹿沢温泉の最寄駅ですが、どちらも駅から約20kmも離れています。
その上、万座・鹿沢口駅からは万座温泉へのバスは、1日3本。鹿沢温泉へのバスに至っては、2009年に廃止されました。
温泉の玄関口としての役割はほぼ失い、特急が無くなったのも納得です。
それでも万座温泉へは、一応鉄道の玄関口。
駅近くにある観光案内所を見ながら、終点の大前駅へ向かいます。
普通列車のほとんどは万座・鹿沢口駅止まりで、大前駅までの一区間の列車本数は僅か1日4本。
もはや何のために残っているのか分からない、そんな区間になってしまっています。
とは言っても、とんでもない山中へ入って行ったりする訳ではありません。
国道に沿って走っており、ちらほら住宅も見られました。
何より大前駅は、嬬恋村役場の最寄駅でもあります。
列車本数の少ない終着駅ですが、村の中心部に位置していることがよく分かります。
川を挟んで手前側には、駅舎の無い無人駅。終点の大前駅に到着しました。
10:41 大前駅 着
高崎駅からは2時間ほどで、吾妻線の終点です。
各車両数人居た鉄道ファンの方々が、カメラ片手にホームへ降り立ちます。
駅周辺は完全に撮影会状態。
ほとんどの方はこの列車に折り返し乗車するので、わずかな滞在時間の間に少しでも写真を撮ろうと一生懸命です。
というのも、折り返し10:50発を逃すと、次の列車は、17:32発。
なんと7時間近くも間が空いてしまうのです。余程でなければ、列車を見送る方はいらっしゃいません。
これほど列車本数の少ない、万座・鹿沢口駅〜大前駅の一区間。どうして廃線にならないのでしょうか。
その理由は吾妻線の配線、線路の状況にあります。
特急列車が来ていた万座・鹿沢口駅は、線路が1本だけ。そのため、後続の普通列車が迫っている場合、特急列車を奥へ逃さなければなりませんでした。
その回送先に選ばれていたのが、大前駅です。
4両編成の普通列車しか来ない大前駅ですが、特急をここに置いておくため、7両編成の停車位置目標が設置されています。
万座・鹿沢口駅に特急が来なくなってから7年、現在では回送列車の逃げ場という役割も無くなっています。
しかし、路線廃止にも様々手続きが必要。その手間を考えたら、本数を減らして走らせておいた方が楽なのでしょう。
今回はすぐに折り返し乗車をせず、ここへ来たほぼ全員を乗せた列車をお見送りしました。
駅に残ったのは他に2人だけ。うち1人はリアル乗り遅れでした。
次来る時は廃止が決まってからかもしれません。
そのため、列車や人がいない状態の大前駅を、落ち着いて見ておきたかったのです。
大前駅で途切れている吾妻線。本来は県境を越えて、長野県豊野駅まで伸びる予定でした。
しかし、大前〜豊野は建設が断念され、未着工に終わりました。
その理由は大前駅より西側における地熱が高く、鉄道トンネルの掘削が危険だったためと言われます。たくさんの温泉が集まる吾妻線沿線、それだけ厳しい自然を突きつけられたのです。
ホーム上にはコンクリートの待合室。プレハブ住宅を思わせる外壁が貼られていて、かなり立派に見えます。
一方で無機質な室内には、ローカル線の駅という印象です。
駅ノートも備え付けられており、多くの方が記録を残していました。
7時間後の列車を待つことはせず、隣駅の万座・鹿沢口駅まで歩きます。
この方法なら大前駅を堪能しつつ、列車を待ち続ける必要はありません。
ちなみに平日なら、乗合送迎サービスもあるみたいでした。
駅前の新げな橋を渡り、国道へ向かいます。
どうやら改良工事を行なっている最中みたいで、工事中の道路沿いを歩きます。
先ほど列車から少し見えていた、嬬恋村役場も大前駅からすぐ近く。
人口8000人ほどの村で、実は長野原町よりも多かったりします。
大前駅から万座・鹿沢口駅まで徒歩40分ほど。
3.3kmの道のりなので、散歩気分で十分歩ける距離です。
そんな訳で、万座・鹿沢口駅に到着です。
駅に隣接してロータリーがあり、最盛期は過ぎたものの、交通の拠点として機能はしています。
万座・鹿沢口駅から長野原草津口方面に関しては、1日10本列車が来ています。大前方面と比べて倍の本数です。
また、Suicaなど交通系ICカードを利用できる駅でもあります。
今では普通列車しか来なくなった駅、ホーム上には特急の停車位置案内が残されていました。
7両編成の651系電車も引退し、少なくとも7両の特急が来ることはもう無いはずです。
12:47発普通列車で、長野原草津口方面へ。
大前駅に到着してから2時間なので、歩くことが苦にならない方ならおすすめのルートになります。
吾妻線で存廃議論に上がっているのは、長野原草津口〜大前。特急列車が走っていない区間です。
1日4本の一区間に限らず、末端区間の今後にも注目したいです。
今回もご覧いただき、ありがとうございました。