九州 JR

大正時代の駅舎を再現。駅の美術館、門司港駅【九州一周2】

2020年3月29日

新幹線で小倉まで来たのち、門司港駅までやってきました。

 

『もじこう』と国鉄フォントで書かれ、ノスタルジックな駅名標が迎えてくれます。

 

駅の時計は屋根から提げられ、列車へ乗る人々へ時刻を報せる、当たり前のものですら古風に感じさせられるのです。

 

今回は鉄道ファンだけでなく一般の方々でも多くの方に知られる門司港駅をご紹介します。

 

改札内にもモニュメント多数

門司港駅は門司駅として1891年に開業、1914年に現在の位置へ移転し、そのときに建てられたものが現在残っている駅舎です。

 

1942年の関門トンネル開通によって門司駅から門司港駅になりましたが、それは九州の玄関口が変わったから。つまりそれまで門司港駅は九州の玄関口だったわけです。

 

鉄道の起点とされ続けている門司港駅は頭端式ホーム。行き止まりの部分には『旅立ちの鐘 幸福の泉』があります。

その奥には0哩(マイル)の標が置かれていました。

 

旅立ちの鐘は古くは出発合図、昭和の頃は乗客の安全祈願とされてきました。

現在は幸福の泉が流れ込み、門司港から旅立つ乗客を見守る、そんなシンボルとなっています。

 

ホームは2面4線なのですが、ホームは1、2番のりばと4、5番のりばです。3番のりばは無く、線路はホームに面していません。

 

2番線の端には先程の『旅立ちの鐘』とは別に『安全の鐘』が設置されています。これはJR九州発足時に設置されたものです。

 

関門連絡船とのつながり

改札外へ出たところです。右手方向に関門連絡船に乗車する人々が向かった通路があります。

 

それがこちら、関門連絡船通路跡です。

階段を下っていくと実際どんな通路だったのか何となく分かります。

ここから100メートルほど歩いて桟橋へ至ったそうです。1日53往復、平均2万4千人ものお客を船便で運んでいました。

 

こちらには旧監視孔。戦時中は九州と本州を行き交う人々を監視するということをやっていましたので、そのための孔です。この中に監視所があり、見張っていたのでしょう。

 

さて、関門連絡船通路跡の近くには骨組みのようなものがありました。

 

これは旧 正面上家。2012年ごろまで90年ち近くの間、駅舎正面のひさしとして使われてきました。

 

しかし大正時代の駅舎を復元する上で、その当時はこの正面上家はありませんでしたので撤去されたのです。

 

待合室内の展示

駅舎入り口の左側には待合室があります。昔は小荷物取扱所でした。

片方だけで正方形のような大きな扉が自動で開くのは迫力さえあります。

 

待合室内は天井が高く、博物館のロビーのようです。テレビや門司港駅の歴史のパネルも設置されていました。

 

さらに、待合室と繋がった部屋には門司港駅に関する展示品や子供たちが描いた絵が飾ってあります。

 

入り口付近にあるのが『誇りの鏡』。この鏡にはあるエピソードがあります。

 

終戦を迎えた1945年、門司港には多くの引揚者が集まっていました。

その中に韓国、釜山から茨城へ帰る途中の池田うた子さんがいました。3歳の子を連れながらの妊婦さん。しかし、門司港の地で産気づいてしまったのです。

知り合いや身寄りもいない中、手を差し伸べたのが当時の門司港駅職員でした。

うた子さんをリヤカーに乗せ、3歳の子を背負って病院に向かいましたが、着いたのは医師も看護師もいない午後9時。

職員は自宅へと連れて、近所の女性の助けを借りて、8月21日に男の子を出産し、「左門司(さもんじ)」と名付けられました。

その後朝鮮からご主人も引き揚げ、家族で茨城へ帰ることができたそうです。

 

数十年後、大人になった左門司さんは結婚する事になり、幼い頃から聞かされていた出生のエピソードから、恩人の当時の駅職員を結婚式に招待しようと考えました。26年前のことで恩人探しは難航しましたが、多くの方の協力で見つける事ができました。

しかし、結婚式に招待したものの、「国鉄職員として当たり前のことをしたまでです」と辞退しました。ところが、航空券の用意をするほど熱心な誘いに、招待を受けたということです。

結婚式の終了後、左門司さんの父は職員にお礼として楕円形の大きな鏡を送りました。

当時の門司港駅長は感銘を受け、「国鉄職員の誇りである」として『誇りの鏡』と名付け、駅事務所に掲げたそうです。

 

現在でもそのエピソードが語り継がれているのは『誇りの鏡』という現物があるからでしょう。

 

寄贈品だけではなく、貴賓室や食堂などで用いられていた貴重な資料が展示されていました。

 

ほかにも門司港駅の設計図や調査資料も。大変興味深いものです。

 

改札周辺のみどころ

それでは改札口の周りを見ていきます。

自動改札機と有人改札が半分ずつあって、自動改札機は茶色に塗られていました。

元々自動改札機を導入するときに反対があったのですが、このような配色をすることで自動改札機の設置が決まったそうです。

 

改札の左にはファミリーマート。京都などで良くありますが、周りの景観に合わせた配色。門司港駅にあっても違和感ありません。

 

ファミリーマートのお隣には洗面所があります。まずはその前にある蛇口に注目。

 

駅建設の大正3年からある水道です。戦前の海外旅行帰国者や終戦後の兵隊さんたちに門司のおいしい水を提供し続けました。

錆や石のざらざらとした表面はその歴史を物語っています。

 

洗面所の中は現在も使用できる水道が並んでいます。蒸気機関車の時代はすすを落とすのに使っていました。

 

さらに奥は駅の外になるのですが、お手洗いにも『展示物』があります。

 

まずはこちら、幸運の手水鉢。こちらは建設当時の大正3年から残っており、貴重なものです。青銅製なのですが、戦時中の貴金属供出からも免れたそうで、それだけ大切にされていたのでしょうね。

手水鉢とは言いますが、さすがに手を入れる気にはならなかったです。水は入れ替えていると信じていますが。

 

また、大正時代の便器も展示されていました。形としては今の和式トイレとほとんど変わっていませんね。汲み取り式ではなく水で流す水洗式です。

 

駅舎内 コンコースの様子

改札前まで戻ってきました。やっとですが、駅舎内のご紹介です。

 

中へ入るとまさに駅が芸術作品のような空間になっています。上から吊るされた照明も高貴さを感じさせます。

 

改札方面へ振り返って右手には門司港駅紹介ビデオが流れるテレビとスターバックスがあります。スターバックスは元々3等車(普通車)乗客用の待合室でした。

 

左側は自動券売機と、大正時代の窓口の再現、そしてみどりの窓口があります。

みどりの窓口は1、2等車乗客(グリーン車以上)の待合室でした。

 

みどりの窓口内はこのような内装。当時の1、2等車は本当の上級階層しか乗ることが出来ないものでしたから、それにふさわしいような上品なデザインになっています。

ここまで素晴らしい空間のみどりの窓口は他に無いでしょう。

 

駅舎を少し出た、エントランスのような空間がこちら。

 

そこにはこのような階段があります。2階にはみかど食堂や貴賓室などの施設があって面白いようですが、今回は時間的に開いていませんでした。

 

階段と反対側にはスターバックスの屋外飲食スペースもありました。

 

駅舎外観・駅周辺

いよいよ駅の外に出まして、駅舎を見ることにしましょう。

 

クリーム色の壁に青緑の屋根が特徴的な、ネオ・ルネサンスと呼ばれる建築です。

ただ荘厳さを表すのではなく、これを見ているだけでもうっとりする、とても素敵な外装の駅です。

 

もはやこれは駅ではなく、西欧の博物館や美術館、図書館へ来てしまったのではと錯覚してしまうほどです。

このレベルの駅となると東京駅しか思い浮かばないため、駅と比較できずに駅以外の建物で形容するしか無くなってしまいます。

 

門司港駅はこの地区のシンボルに違いありません。駅前広場には噴水もあって、この地区の中心の役割を果たしています。

 

門司港駅横にはJR九州北九州本社とJR貨物九州支社として使用されたビルがあります。

かつては門司鉄道監理局として九州の鉄道の拠点とされた建物でした。

 

しかし、現在はその用途では使用されておらず、飲食店などが入る建物となっています。

あまり綺麗とは言えず、レトロというよりただの古い建物という印象ですが、少なからず門司が鉄道の拠点だった遺産です。

 

一等駅として君臨し続けた門司港駅、現在は九州鉄道の玄関口としての役目は薄れていますが、門司港駅は鉄道の歴史を語り継ぎ続けることでしょう。

今回もご覧いただき、ありがとうございました。

 

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