東北地方南部を襲った豪雨により、米沢駅から日本海側に向かい、坂町駅までを結ぶ米坂線は大きな被害を受けました。
米沢〜今泉駅については、8月10日より再開予定。
しかし、米坂線はJR東日本が収支を公開した赤字路線であり、廃線も示唆されます。
公開したデータ(2019年度)の一部は以下のとおりです。
米沢〜今泉…輸送密度776/営業係数1,241
今泉〜小国…輸送密度298/営業係数2,659
小国〜坂町…輸送密度169/営業係数2,575
※輸送密度:1日1kmあたりの利用者を示す平均通過人員
※営業係数:100円の収入を得るのに必要な費用
米沢駅から外へ出られなくなった気動車たちも、ここで待機中になっています。
米坂線にはまだ雪が降る3月に乗車してきました。その時の様子をご覧いただきましょう。
やって来たのは米沢駅です。
ホーム上では米坂線のホーム案内をしており、有無を言わさず点字ブロックに上書きされていました。
4番線には電気式気動車、GV-E400型気動車が停車中。
JR東日本が非電化ローカル線に勢力を広めているハイブリッド車です。
今回乗車する列車は、さらに奥の5番線ホームから発車でした。
使用されるのは旧来のキハ110系です。
米沢駅 発
雪に埋もれた車止めから、新潟県へ向けて出発しました。
山形新幹線が走る奥羽本線と併走。あちらは電化されており、ミニ新幹線が走るため線路幅が広い標準軌です。
東京へ向かう山形新幹線と分かれまして、こちらは日本海に向けてカーブします。
木々の中を抜けまして、周囲にはまだ住宅街が続いていました。
そして今回の豪雨で多くの町を襲った、最上川を渡ります。
最初の停車駅は南米沢駅です。
山形大学米沢キャンパス(工学部)、米沢興譲館高校、米沢商業高校、九里学園高校、米沢養護学校など、多くの学校の最寄り駅となっています。
米沢駅から南下してきましたが、更にカーブして180°方向転換、北上していきます。
西米沢駅の近くには国道121号線が通っており、イオンやヨークベニマル、ホームセンター等、ロードサイド店舗が立ち並びます。
続いて渡っているのは最上川の支流、鬼面川です。この川も氾濫し、周囲の田んぼや果樹園を冠水させました。
待合所があるだけの簡素なホーム、成島駅に到着しました。
GoogleMapを見てみると、この辺りが水田中の鉄道として、スポットに登録されています。
冬では水田も雪原になって、本当に美しいところ。成島〜中郡駅では道床流出の写真が公表されていました。
ということは、この辺りの水田も冠水が起こったと考えられます。農家の方々のことを思うと、心が痛むばかりです。
中郡駅から東置賜郡川西町に入っています。羽前小松駅はその中心部に位置する駅です。
1982年、羽前小松駅が無人化される計画を受け、「羽前小松駅業務管理組合」を設立。国鉄・JRから駅業務を受託する、全国初の「町民駅」として運営してきました。
現在では運営母体が変わっているものの、簡易委託駅として窓口も営業しています。
この駅は2面2線で、行き違い可能な構造です。
犬川〜今泉駅も同じく、道床流出の写真が公開された区間となっています。運転再開の方針が立っている部分ですから、具体的な状況を写真で示してくれているのです。
進行方向右手から、線路が合流してきました。
あれは山形鉄道フラワー長井線です。赤湯〜荒砥駅を結び、今泉駅を経由することでV字の形をした路線となっています。
(地理院地図を改変)
国鉄民営化翌年の1988年、JR東日本から山形鉄道へ引き継がれました。
今泉駅は4方向へ分岐する重要な駅。
向こう側の1,2番線をフラワー長井線、3,4番線を米坂線が使用しています。
今泉駅を出発すると、フラワー長井線と米坂線は同じ線路を走ります。元々は同じ国鉄・JRだったので、こういうことも起こるのです。
そのまま最上川から分岐してくる大きな川、白川を渡ります。
その先にある白川信号場跡が、フラワー長井線と米坂線の分岐点です。
白川信号場は1984年に廃止されており、現在は今泉駅の構内扱いになっています。それでも木造の建物が残っているので、当時の面影は感じられますね。
分かれていく長井線に沿って、電柱が立っているので電化路線に見えますが、全線非電化です。
この信号場から先が、運転再開の見込みが立っていない区間です。
飯豊町の中心駅、羽前椿駅に到着。
羽前椿駅発着の列車が3往復設定されているため、次の復旧区間としては折返し可能なこの駅が目安になるでしょう。
米坂線では鉄橋崩落の被害がありましたが、それは羽前椿〜手ノ子駅間にある小白川鉄橋です。
山に入る手前にある40m程の長さですが、線路もぶら下がった状態になっています。
この先は山の区間に入りますが、今度は土砂災害も気になるところ。しかし、鉄橋崩落に比べてしまえば、まだ復旧は容易に思います。
手ノ子駅の駅舎は2020年に新しくなったばかり。非対称な切妻で、片方に雪が流れるようにしています。
列車はどんどん山を登っていき、宇津峠を越えます。
この峠にあるのが宇津トンネル、モアイ像の顎に向かって真っ直ぐ貫いていきます。
羽前沼沢駅のホーム上には年季の入った、倉庫らしき建物が残っていました。
1967年には羽越豪雨がこの地域を襲っており、運転を見合わせた米坂線の乗客が、ここで炊き出しを受けたそうです。やはり以前にも豪雨災害はあったのですね。
伊佐領駅はかつて交換可能駅だったみたいで、ポイントが残されていました。
雪でホーム跡などは全く分かりません。
駅周辺の施設として基督教独立学園高等学校が挙げられますが、10km以上歩かないといけないので、まず通学には使えません。
田舎の駅に立つ名所案内で、普通に行けないよ!ってやつみたいですね。
峠を越えたことで川も変わっており、明沢川を渡ります。
宇津トンネルは真っ直ぐ山を貫いていましたが、その先は蛇行気味。この辺りは勾配が25‰にもなっており、それを少しでも和らげようとしているみたいです。
これを登った先にあるのが、羽前松岡駅です。
国道113号と並走しまして、小国駅に到着します。
小国駅にて列車行き違いのため19分の停車。
この駅は駅長さんもいる直営駅で、米坂線の中でも重要な拠点です。
良い味を出している白壁に、赤屋根の駅舎。
この美しさが認められ、2002年に東北の駅百選に選ばれています。
駅前通も2〜3階建ての古い建物が立ち並んでおり、その先には雪の積もる山。北の田舎町って感じで、歴史を感じる良い雰囲気です。
駅舎内には木板が貼られており、コンクリートやモルタルとは違って温かみを感じます。
小国町はマタギでも有名で、マタギの格好をした熊がスキーをするという異常な剥製がありました(笑)
反対方向の列車と行き違いまして、出発です。
山の中ということで、辺りは結構暗くなってしまいました。ここから県境に臨みます。
山形県から新潟県に入りました。
引き続き列車は荒川沿い、渓谷の近くを走っています。
並行する国道113号は荒谷トンネルを抜けてきました。
黄色いナトリウムランプではなく青色の光、なんだか幻想的です。
越後片貝駅はスキー場のロッジみたいな雰囲気。
駅舎には九ヶ谷地区ふるさと会館が入居しています。
関川村の中心駅、越後下関駅にて列車交換。
越後〜米沢を結んだ旧米沢街道が、駅からすぐに楽しめます。
米坂線最後の駅、越後大島駅に到着。意外とここからの一駅が長く、山で隔てられています。
辺りは完全に真っ暗、車で照らされた道路が闇に浮かんでいるようです。
越後平野の北端に当たる、荒川の扇状地へ出てきました。
米坂線は急にカーブしまして、羽越本線と並走。
終点の坂町駅に到着しました。
置賜地域の平野から山を越えて新潟へ、雪景色の中どちらも楽しめるのは本当に素敵なものでした。
しかし、輸送密度の低い米坂線における倒壊した鉄橋の架替えは、あまりに大きな出費です。
まだ被害の全体像が見えていませんが、復旧の場合は山形県・新潟県に対して何らかの補助。さらに今後の運行についても上下分離方式の採用など求める可能性があります。
何とか残してほしいと思う路線ですが、米沢〜新潟では並行して高速バス「Zao号」も結ばれています。
鉄道が有効な公共交通なのか、間違いなく見直されるきっかけになるでしょう。
今回もご覧いただきまして、ありがとうございました。
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