東海道新幹線の米原〜京都は、東海道山陽新幹線で最も長い駅間距離です。
かつてこの区間には、滋賀県内に新幹線駅を設置する計画がありました。その駅とは「南びわ湖駅」、駅名も公募されて決まっていたのです。
予定地は草津線と東海道本線が交差する辺りになります。
幻に終わった南びわ湖駅へ、草津駅から草津線に乗って向かいましょう。
西明石駅から続く日本一の複々線はここ草津駅で終わっており、複線となった東海道本線の横を走り始めました。
草津線は南方向へカーブ。東海道本線へ直通できるよう、左側から上り線が立体交差して合流しました。
単線となった線路は、東海道新幹線と交差。
南びわ湖駅はこのあたりに設置される予定で、草津線にも乗り換えできるよう新駅が開業するはずでした。
草津駅から一区間、栗東市の手原駅に到着です。
手原駅から駅設置予定地までは1.1km、東海道本線栗東駅からは1.7kmです。
15分程歩いて到着しました。
駅周辺は南びわ湖駅の開業に合わせて、新都心の開発のため、区画整理が行われていました。
そのため予定地周辺はある程度きれいな町並みです。
米原〜京都の駅間距離は68.1km。南びわ湖駅は米原から43.8km・京都から24.3km地点の栗東市に設置予定でした。
新駅設置が計画されたのは、国鉄民営化頃。
三河安城駅、掛川駅、新富士駅の請願駅設置が相次いだことを受け、滋賀県南部地域に東海道新幹線の恩恵を行き渡らせるために計画されました。
もう一つの候補地として近江八幡市もありましたが、こちらはびわこ空港の誘致計画に集中するため除外されています。
近江鉄道万葉あかね線との交差地点が候補だったのではないかと思われます。
また、南びわ湖駅近くには既に栗東信号場があって、用地確保なども容易でした。
長い間滋賀県内で新幹線駅を追加設置する構想はあったのですが、大きく動いたのは1988年。滋賀県で新駅設置の促進協議会が設置されました。
1991年に東海道本線で栗東駅が開業したため、仮称は栗東駅から、びわこ栗東駅に。
2002年4月には滋賀県、栗東市、促進協議会、JR東海で基本協定書を締結し、新駅設置が正式に決定します。
この駅は請願駅なので、駅設置費用は自治体が負担します。238億円のうち栗東市が100億円、滋賀県が116億円の予算を組み、残りは周辺自治体が負担しました。
駅構造は2面5線で、下り2番線は雪落としのための線路。
岐阜羽島駅・米原駅と同様、ひかり号とこだま号合わせて1時間2本の停車が見込まれていました。
ここでは在来線へ乗り換えができるよう、奥に小さく見えるパワーの辺りに、草津線新駅が設置される予定でした。
400m程離れているので動く歩道を設置予定、新下関駅みたいですね。
2006年5月には促進協議会が駅名公募の結果、「南びわ湖駅」に決定。
南びわ湖駅は2012年開業を目指し、2006年5月27日に着工しました。
しかし、2006年7月に行われた滋賀県知事選で、建設中止を公約に掲げた嘉田由紀子氏が当選。この結果を受けてJR東海は建設を中止しました。
南びわ湖駅の設置には、反対派も多くいました。
最も大きな理由は、ここに駅を設置しても長距離移動においては、京都駅からのぞみ号を利用する人がほとんどと予測されたためです。
JR東海は2007年10月を期限に、建設可否の議論決着を求めました。
2007年4月には工場関係者が撤収、そのまま10月を迎えて正式に建設が中止されました。
しかし、県知事2期目を迎えた嘉田知事は一転し、2012年8月にリニア開通後は東海道新幹線の中距離需要がメインとなるため、南びわ湖駅は必要と発言。
2014年、後継の三日月知事は南びわ湖駅設置を公約に当選しました。
この方はJR西日本出身で、国土交通副大臣を歴任した交通には深い関わりのある方です。
一方で、JR東海の柘植康英社長は「滋賀県内の新幹線新駅は整理が済んだ話。もう終わった」「栗東新駅の話があって工事を始めた後、滋賀県から建設のお断りがあり、やむなく整理した」としています。
南びわ湖駅は、今後も駅設置の望みは完全に途絶えたと言って良いでしょう。
元々は市民交流拠点や、宿泊施設のためにされていた区画整理事業。
現在では企業誘致が行われまして、多くの工場を見られます。
反対側にも日清食品関西工場ができて、今や車窓からの目印です。
南びわ湖駅の計画が頓挫したので、草津線の在来線駅も設置されていません。
このエリアについてはホームセンターパワーと、マクドナルドが出店しています。
裏手の駐車場からは交差地点を見られ、新幹線が通過していきます。
自治体にとって大きなお金が動くことになる新幹線。
果たしてどちらが正解だったのか分かりませんが、琵琶湖の南で大きな議論を呼んだ出来事でした。
今回もご覧いただき、ありがとうございました。
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