日豊本線の小倉駅・城野駅から、久大本線の夜明駅・日田駅を結ぶ、JR日田彦山線。
2017年夏に起こった平成29年7月九州北部豪雨により被災し、添田駅〜夜明駅間が不通になりました。
利用者が非常に少ない区間のため、鉄道での復旧は断念。鉄路にアスファルトを敷いた専用道を含む、BRTでの復旧となりました。
その名も「日田彦山線BRTひこぼしライン」、これからもJR九州のネットワークの一部として存続します。
6年続いた代行バスから、持続可能な交通体系としてのBRT復旧。2023年8月28日、運行初日朝の様子をお届けします。
JR日田彦山線の主要駅、田川伊田駅に来ました。
この通り運賃表にも「BRTひこぼしライン」の表示が出ています。鉄道とBRTを乗継ぐと、合計金額から100円引かれる運賃になっているそうです。
BRT添田〜BRT日田の乗車券は購入できなかったため、田川伊田駅からBRT日田を購入。
記念に専用道内の新駅「BRT深倉」から、開業おめでとうの意味を込めて「BRT祝原」も購入してみました。
乗車するのは普通列車添田行き、鉄道区間に関して特に変わった様子はありません。
7:40 田川伊田駅 発
第三セクター平成筑豊鉄道伊田線の乗り換え駅、盛り土された少々高いところに、広めの駅構内が整備されています。
運賃表を見てみますと、従来鉄道駅が設置されていた駅に関しては、BRT区間も表示されていました。
そして添田駅到着時には、「彦山、大行司、日田方面、BRTひこぼしラインにお乗換のお客様は、乗務員にお申し出ください。BRTは、到着ホームの向かい側から発車します。」との放送が流れます。
左手に注目していますと、添田駅駅舎裏側にはバスの車庫が設けられていました。
導入されたのは小型電気バス4台と、中型ディーゼルバス2台。おそらく充電ステーションが4基設置されているようです。
入線しますとホーム右側が列車のりば、左側がBRTのりばになっているのが分かります。
8:04 添田駅 着
添田駅の島式ホーム1面2線のうち、1線をアスファルト敷にしてBRTのりばに、対面乗り換えできる構造となりました。
券売機と運行情報案内はこれまでも設置されており、ホーム上に設けられています。
待合ブースには木材を使用しており、開放感と共に温かみのある停留所となっています。
ここでは写し忘れてしまいましたが、右側に立っている白い板には、最後にご紹介する日田駅に設置されているものと同様、BRTの発車案内が表示されています。
一方で走行位置案内は出ておらず、JR九州アプリどれどれで確認できるそうです。
ホームからスロープを降りてきまして、駅舎の方へ来てみました。
列車到着時にも見られた車庫スペース、シャッターには日田彦山線BRTひこぼしラインのロゴマークがペイントされています。
ここにはロータリーも整備されており、通学生徒さんや高齢者の方の送迎にも便利。ちょうどやってきた添田町バスもここから発着するみたいです。
発車4分前くらいになって、BRTが入線してきました。
この通り列車とBRTが隣り合っており、気仙沼駅や盛駅で見たような光景がここにも。かなり年季の入ったキハ40と最新型電気バスが並ぶ、このミスマッチも面白いです。
08:13 添田駅 発
定刻通り添田駅を出発しました。今の所そこまで乗車率は高くなく、2人掛けの座席も空いている状態です。
左手には先ほどご覧いただきました、BRTの車庫が見えています。
今日はお客さんが多いことが予想されるため、2台体制での運行です。JR九州オムニバスの車両が臨時で入っていました。
BRTのりばへの入線は一方通行、どちら方面であっても彦山方の入り口からプラットホームへ入っていきます。
ここで日田彦山BRTひこぼしラインの路線図をご覧いただきます。
添田駅〜彦山駅は一般道を走行、彦山駅からかつて鉄道が走っていた跡地を活用した専用道に入ります。ちょうど大分県との県境に位置する宝珠山駅からは再び一般道へ。現在も鉄道が通常運行している久大本線の夜明駅〜日田駅と重複しますが、BRTはこの区間も一般道を走り日田駅まで至ります。
一般道ではBRTの強みを活かすべく、多くの停留所が設置されました。その数は36に及び、病院、学校、商業施設の前などへのアクセスが便利になっています。
これまでの代行バスとはルートが少々異なっており、脇道に逸れつつ鉄道跡沿いを走行します。
運転席に設置されているモニターにも、一般道の表示が出ていました。ここは通常のバスと何ら変わらない運行が行われます。
3つ停留所を挟みまして、鉄道時代では彦山駅のお隣だった歓遊舎ひこさん駅。添田町が費用を負担し、道の駅に隣接して2008年に新駅が開業したのですが、被災により列車が来たのは9年間だけでした。
線路は剥がされているものの、右手には廃線跡っぽく鉄道の路盤が残されています。
彦山川と並行する県道52号を走っており、この川もまた豪雨の際に町を襲いました。鉄道は添田駅〜歓遊舎ひこさん駅で渡っていたのですが、その鉄橋も被災してしまっています。
道路が線路跡を超えたことで、今度は左手に移ってきました。
豊前桝田駅に到着、鉄道時代から待合所が設けられているだけの駅だったため、現在でも通常のバス停みたいです。
旧英彦中学校前停留所を通過、くるみ保育園になっているようで、近くに町立落合小学校もあります。
どちらも「ひこさん」と読む「英彦山」「彦山」が混在しているのですが、「英彦」という地名も存在してちょっとややこしいです。
バスは国道500号へ繋がる県道52号を外れ、山の中へ登っていきます。
次の停車駅は彦山駅、遂に専用道の区間へ突入です。
1942年開業当初からの大きな木造駅舎が残されていたのですが、BRT工事に伴い解体されてしまいました。
その代わりに整備されたのが新しい待合所と、BRTのプラットホームです。
一般車両乗り入れを防ぐため設置されている、BRT特有の専用道に向けた遮断棒の先へ入ります。
ここも木材が使用されている待合ブースですが、添田駅で見たものと組み方が異なります。方向性はある程度統一されている一方で、それぞれ独自性が表れているのも良いですね。
日田彦山線は単線だったため、アスファルトを敷いてもバス1台分の幅しかありません。ここで向かいから来た添田行きのBRTと行き違います。
あちらは今乗っているのと同じ電気バス、棚田カラーver.です。
彦山駅を出発したところで、BRTについて紹介の放送が流れました。
「現在、このBRTはBRT専用道を走行しています。全長14kmのBRT専用道は、途中高台から見下ろす四季の移ろいを感じる美しい風景を初め、全長4379mの長大な釈迦岳トンネルや、近代土木遺産にも指定された、アーチ型の通称めがね橋を走行します。BRTひこぼしラインの車窓からの風景を、ぜひお楽しみください。」
専用道に入ったことで、運転台のモニターの表示も変わりました。
BRT同士行き違えないところで詰まってしまわないよう、管理が行われているものと思われます。
次のBRT駅は深倉駅です。
一般道では非常に多くの停留所が設置されましたが、専用道区間では唯一の新設BRT駅です。
駅構造としてはそこまで大掛かりなものではなく、通常のバス停みたいなところでした。
深倉駅を出発しますと、いよいよ釈迦岳トンネルへ入ります。全長4,379mで1956年の完成当時は九州最長の鉄道トンネルでした。
従来の代行バスは彦山駅〜筑前岩屋駅において、かなりの遠回りを強いられていました。しかもこの道は急カーブと急勾配が連続する、あまり良い道とは言い難いところです。
鉄道トンネルを走れるようになったことで、彦山駅〜筑前岩屋駅の所要時間は代行バスの36分からBRTでは14分に短縮しています。
一般道ではなかなか見られない、狭いトンネルを飛ばしていくのは、BRTの醍醐味とも言える光景です。緑と黄色のライトが一定間隔で設置されているのが特徴的でした。
乗り心地も非常に良くて、BRTができて本当に良かったと思います。
かなり長いトンネルということで、非常電話が設置されていたりと安全性も確保されています。
だんだんと視界が曇ってきまして、年中温度が一定に保たれているトンネルないはかなりひんやりしているのでしょう。
トンネル内を8分ほど走り続けまして、筑前岩屋駅に到着です。
1997年に改築された駅舎は、近くの岩屋神社を模した木造です。
平成29年7月九州北部豪雨では土砂が流れ込み、特に被害が大きかったところになります。
土砂で曲がった筑前岩屋駅構内のレールは、お隣大行司駅前に保存されています。ホームの高さまで土砂が埋まったという、その威力を思い知らされるものです。
長大トンネルを走行していたため、この通り窓は曇ってしまいました。
そんな長い釈迦岳トンネル掘削は非常に難工事で、建設中には29名もの方々が殉職されました。駅近くには殉職碑が建てられています。
鉄道トンネルとしての役割を終えても、BRT専用道の効果を最大限に発揮することになりました。先人の方々が命を張って繋げてくれたこの路、これからも長きに渡って活躍してほしいです。
筑前岩屋駅を出発したところ、2023年7月には整備を終えたこの辺りの専用道が損壊しました。
なんとか無事予定通り開業できてよかったですが、急ピッチの工事が伺えます。何となく砂利が白っぽく、新しい雰囲気がありました。
そしてこの辺りは右手の車窓が非常に美しいです。
おそらくここは栗木野橋梁、全長71.2m・高さ20mの無筋コンクリート5連アーチ橋は、近代土木遺産に選ばれています。
非常に山の中を走っていることもあり、鹿注意の標識も設置されていました。
ちなみに当初BRT専用道は、彦山駅〜筑前岩屋駅の予定でした。しかし、東峰村が専用道区間延長を要望し、宝珠山駅まで伸ばされたのです。
また、ちょうど棚田親水公園が見えているこの辺りには、棚田親水公園駅を設置する予定でした。
しかし、新駅予定地の地形や高低差、利用者の利便性などを考慮した結果、東峰村は駅設置の中止を発表しました。
列車はいくつか短めのトンネルが連続する、山の中を走っていきます。
山の切れ目に広がる棚田が本当に綺麗、東峰村は日本一美しい村連合に加盟しており、その名に恥じない景観です。
日田彦山線BRTひこぼしラインは、昭和13年竣工の3つのアーチ橋を走ります。そのうち1番大きいのが、宝珠山橋梁(奈良尾橋)です。
以前代行バスから撮影したものですが、ここをバスが走っていると思うと、非常に面白そうな光景です。
大行司駅に到着しました。
バスの出口の都合上、両方にホームが設けられていますが、行き違いはできません。
奥の方には鉄道時代のプラットホームも残されていました。
下に目をやると2019年に復元工事が行われた駅舎が建っています。
水害の被害を受けてから再建したのですが、結局鉄道を迎えることは一度もありませんでした。
大肥川を見下ろすようにして走行、今でも工事が行われており、黒い土嚢が並んでいました。
新しく架けられたコンクリート橋、まるで歩道みたいな橋で大肥川を渡ります。
その先で宝珠山駅に到着。
1998年に建て替えられた駅舎ですが、旧駅舎をモデルにした木造駅舎。春には桜が咲いて非常に雰囲気のある素敵な駅周辺となります。
向かい側の待合ブースを見てみますと、今度は多角形を重ねた形です。
かつてのプラットホームには県境の標、福岡県と大分県の県境をホームが跨いでいました。
専用道区間は宝珠山駅で終わりまして、ここからは再び一般道区間です。
正面から駅舎を見てみますと、昔ながらの駅舎をモデルにしたってことがお分かりいただけるのではないでしょうか。
駅前の国道211号を抜けまして、大分県に入ります。日本一のおんせん県というイラストが描かれていました。
時刻は9時を越えたということもあり、県境を越えると地元の方が手を振ってくださるように。
吉竹駅では、ひこぼしラインのタオルを持ってお見送りしてくださいました。
さらに、次の名本駅でもうちわでの歓迎、乗車もされていて新たな日常をお出迎えしてくださいます。
普通のバス停はあのようなデザインで、非常に爽やかというか優しい印象です。
大明小中学校前駅に到着しました。
ここには日田市立大明小学校・中学校があって、非常に多くの市民がお出迎えしてくださいました。ここまでの歓迎ムードには驚きを隠せません。
ここの生徒さんが中心にいらっしゃって、その様子をテレビ局の方が撮影されていました。
次は鉄道駅もありました、今山駅です。
国道から少々外れまして、廃線跡や駅跡らしき区画を超えていきます。
ここでも多くの方が旗を振ってお出迎えしてくださいました。初日の朝に乗ったからこそ見られる光景、非常に嬉しくなります。
元々鉄道駅だったところは十分要地が確保されているので、待合ブースや乗降場所など広く整備されています。
この電気バスはコミュニティバスみたいで小さめということもあり、結構な混雑をしていまして、2台目を用意していた意味はちゃんとありました。
次の夜明駅までは4つBRT駅を挟みます。記念に乗車券を購入した、祝原駅を過ぎました。
目の前に現れました、久大本線の鉄橋をくぐります。
これを過ぎると北九州市より伸びていた国道211号から、朝倉市より日田市へ至る国道386号へ入りました。
夜明駅では久大本線へ乗り換えることができます。階段を登った上のところにホームがあり、BRTのりばと列車のりばの案内が表示されていました。
しばらく山道を走ったのち、三隈川沿いを走ります。日田盆地の始まりであり、かなり開けた景色です。
北友田駅、南友田駅に到着。夜明駅〜日田駅は久大本線と並行している区間ですが、これらの停留所で降りている地元の方もいらっしゃって、十分意味のある重複運行です。
ロードサイド型店舗が非常に多く、時間帯によっては渋滞によるBRTの遅れも懸念されるレベルです。大分県内では4番目に人口が多い日田市は、九州北部内陸の中枢を担います。
光岡駅は日田三隈高校の最寄駅で、生徒さんが1人降りて行かれました。
もちろんここでも久大本線と乗り換えることができます。
次は終点の日田駅です。この便は光岡駅の次が日田駅でしたが、便によっては日田市役所前含め3駅を経由します。
林工西口駅は県立日田林工高校、昭和学園前駅は昭和学園高校、日田市役所前駅は日田高校、藤蔭高校、日田紅蘭高等専修学校の最寄駅であり、これらを経由することによって生徒さんの通学輸送を担うのです。
09:46 日田駅 着
定刻通り終点の日田駅に到着しました。
最後に車内をご紹介します。
今回乗車しているのは水郷カラーver.、一席だけ黒いのが優先席です。
いちばん後ろの座席だけ2段高いところに位置しています。
コミュニティバスレベルのコンパクトさでありながら、USB充電ポートまで備わっていました。
座席についてはそこまで分厚くなく、スタイリッシュ。ひこぼしラインということで、星が散りばめられています。
支払い方法として、Pitapa以外の全国共通交通系ICカードを利用できます。
ICカード利用であっても整理券を受け取る必要があり、下車時に運転士さんへ申し出て、タッチする方式です。Pitapaが利用できないことから予測するに、おそらく物販扱いと思われます。
電気バスは4台あって、しゃくなげカラーver.、棚田カラーver.、ゆずカラーver.、水郷カラーver.。
中型ディーゼルバスは、やまなみカラーver.、あやめカラーver.の2台です。ディーゼルバスでは床が木目調になっているそうです。
外装デザインはおりひめの羽衣をイメージしており、羽衣をはためかせながら、ひこぼしラインを走るというサブタイトルが込められています。
どちらのバスであっても低床ノンステップ仕様、車椅子やベビーカーでも利用可能です。
日田駅についてもBRTひこぼしラインに対応するようになりました。
鉄道改札上に表示されていたはずの、日田彦山線の案内は消えています。
代わりに設置されたのが、このデジタルサイネージです。添田駅では撮り忘れてしまいましたが、同じような表示が見られるとのことでした。
発車時刻の他、運行ルートについてもこの通り。
一方でバス走行位置が出ていなかったので、せっかくならそれも表示されたら良いなと思いました。
ホームの向こう側にBRTの車庫が整備されているようで、添田駅と同様の充電ステーションがありました。
沿線自治体が鉄道復旧を望んだこともあり、中々復旧方針が固まらなかった日田彦山線。BRTで復旧できただけでも恵まれていると思います。
これから地域の足として浸透し、便利な公共交通機関として利用されて欲しいです。
また、一般の方を呼び込むのは少々難しそうですが、鉄道らしさを感じられるトンネルやめがね橋からの景色などは非常に魅力的です。ぜひ鉄道ファンとしては訪れていただけたらと思います。
今回もご覧いただき、ありがとうございました。
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