2023年8月26日、栃木県宇都宮市に新たな路面電車が誕生しました。
JR宇都宮駅より東へ14.6km伸びる、宇都宮芳賀ライトレール線。通称「宇都宮ライトレール」です。
宇都宮市東部には、宇都宮清原工業団地(キヤノンなど)、芳賀工業団地(ホンダなど)があります。
それぞれに通勤バスが運行されているのですが、モータリゼーションによる自動車量増加で渋滞が問題視。1987年から新交通システム導入が検討されていました。
2001年には新たな公共交通機関整備として、路面電車(LRT)の導入方針が固められます。
高齢化社会に伴い、高まる免許返納後の公共交通機関の重要性。安定した都市内輸送もここに委ねられました。
将来的には宇都宮駅を越えて、東武宇都宮駅を経由した西側延伸も視野に入っています。
既存路線の延伸ではなく、一から路面電車が敷設されたのは高岡市の万葉線以来75年ぶり。鉄道全体を見ても新たな鉄道会社が立ち上げられて、新規鉄道事業を開始するのは近年稀に見るものです。
全国的に見ても歴史的な瞬間、営業初日の運行をお届けします。
当日朝5時過ぎ、駅前大通を貫き坂を登っていく軌道の先には、朝日が昇り始めました。
今日は降水確率40%、いくらライトレールの開業日だからといって、今日ばかりは「雷都」にならないことを祈ります。
本日は開業日特別ダイヤでの運行、イベント終了後の15時から、一般利用者が乗車できるようになります。
15時台、16時台に宇都宮駅東口停留場を出発する便については、午前8時から配布される整理券が必要。ちょうど1年前にオープンした商業施設ウツノミヤテラスのヨークベニマル横に列ができます。
そして営業初列車となる、15:00宇都宮駅東口発の整理券を手に入れました。今回僕は別の撮影の為、ここからは他の方に撮っていただきます。
転売は禁止ですが、譲渡は可能と確認してあります。
さて、午後になりましたこちらは宇都宮駅です。
宇都宮駅は西口の方が古くから発展してきましたが、宇都宮芳賀ライトレール開業に向けて新しく整備が進められています。
案内サインにも「ライトライン」とロゴマークが表示されていました。
階段を下った先の宇都宮駅東口停留場には、旅客営業初列車となる15:00発の便が停車中です。
ライトラインと呼ばれるこちらの車両は「HU300形」、「芳賀(Haga)」「宇都宮(Utsunomiya)」の頭文字と、3車体連接が由来の「300」を合わせた形式名となります。
おでこには行き先表示「各停 芳賀・高根沢工業団地」と表示されていました。
発車標にもこの通り、非常に駅名が長いため2,3秒ほど途中までの表示で止まり、その後スクロールされる方式でした。
また、路面電車で「各停」という種別が設定されているのも面白いです。
基本的には交通系ICカードの利用が推奨されていますが、現金で支払いの場合は各停留場ホームに設置されている整理券発行機で受け取ります。
ロゴマークとLRTの文字が入っていました。
交通系ICカードを利用する場合は、各扉付近に設置されている読み取り機にかざします。わざわざ先頭まで行く必要が無く、広島電鉄みたいに全ての扉で乗降可能です。
降りる時は上側の黄色い方にタッチします。やや内側に傾きをつけることで、間違えてタッチするのを防いでいるようです。
それでは車内へ乗り込みましょう。
連結部は路面電車の新型車両でよく見る、フラットでカーブ時でも隙間が生まれない構造でした。
その上部には液晶ディスプレイが設置されています。
宇都宮芳賀ライトレール開業2年前からSuica系交通系ICカードtotraを導入しており、路線バスも対応させることで交通系ICカードの浸透を図っていました。
所要時間が45分とかなり長く、フリーWi-Fiも設置されています。車両製造元は新潟トランシスです。
いよいよ発車時刻、ミュージックホーンを鳴らして宇都宮駅東口停留場を出発しました。
ホーム上では多くの関係者の方々によるお見送り、駅周辺には市民や人目見ようと訪れた旅行者がたくさん手を振ってくださいました。
停留場を出てすぐの急カーブは、試運転中に脱線事故が発生したことで記憶に残っています。その後はカント(傾き)を無くしたり期間を縮めたりといった対策工事が行われており、その安全性は十分に確保されました。
再び車内へ目を向けてみましょう。
中間部にもディスプレイが設置されており、このように広告も表示してありました。
その合間では路線図も表れていて、黄色の表示はトランジットセンター(乗換施設)のある停留場です。
ドアの上部分にも細長いディスプレイがあって、今どこを走っているのか案内されます。
他にも車内温度を保てるよう、半自動ドアも採用されていました。
他に非常ボタンも設置されており、間違えて押さないよう枠が設けられていました。ドア上部には防犯カメラもあって、近年の車内防犯対策も行われています。
吊り革は長方形になっており、これは結構珍しい印象。
間接照明が用いられており、全体的に暖かな雰囲気を醸し出しています。
座席にはシンボルカラーの黄色を配色しており、イメージぴったりです。クッションみたいな座席はしっとりした感じ。座席定員は50人で、できるだけ座席を増やしたとのことです。
宇都宮で採れる大谷石をイメージしたのでしょうか、床面は白色に石を散りばめたような柄です。
座席後ろ側には荷物置き場もあります。
運賃表もディスプレイ方式であり、18の停留場に対応しています。
路面電車でありながら料金は一律でなく、150円〜400円の変動制です。
ここからは後面展望を中心に、車窓をお届けします。
現在走っているのは宇都宮駅から東へまっすぐ伸びる、鬼怒通りです。
片側2車線あった道路のうち一本に軌道を敷設し、道路の真ん中を路面電車が走る形になります。
駅東公園前停留場を過ぎると、国道4号を越える立体交差へ。路面電車もここを走ることになり、宇都宮駅前のビル群との境みたいです。
運転台には多くのモニターが設置されています。
スピードメーターは80km/hまで。
現在は最高速度40 km/hで運行していますが、将来的には軌道法上の特別認可を受け、併用軌道で50km/h、専用軌道で70 km/hに引き上げる計画です。
足元には3つのペダルか備わっています。
右側のマイクには「みやでん」とテプラが貼ってありますが、車内で使用される宇都宮芳賀ライトレールの略称みたいです。
運転室内上側には扇風機も2つ設置されていました。
ワンハンドルマスコンであり、鍵とともに設定切り替えのレバーも見られます。
沿線では市民の方々による、盛大なお見送りを受けます。
開業初日、特に一番列車だからこそ見られるこの光景は本当に貴重です。
そして見えてきましたのはショッピングモール、ベルモール|Bell Mallです。ここへ向けての渋滞が酷いと言われており、地方ではイオン周辺が渋滞するなどよく見られること。
その近くにも停留場が設けられており、宇都宮大学陽東キャンパス停留場が最寄りになります。
近くの交差点を見てみますと、確かにベルモールへ向かう右折の車が列を成していました。
今日は仕方ないですが、今後ライトレールを使って行くのが浸透すると非常に嬉しいですが…。
ライトラインは鬼怒通りを外れ、専用軌道に入ります。
田んぼの中を高架線で走っていき、車両基地がある場所へ。
ビニールハウスの向こうには黄色の目立つ、ライトラインたちが並んでいました。
現在17編成51両が所属していますが、将来的に西側延伸を果たした時には車両数の増加が見込まれます。それに備えて既に拡張できるようスペースが確保されているのです。
車両基地すぐ近くにある平石停留場へは、線路が4つへ分かれます。あまりにアスファルトと軌道が綺麗に整備されているので、もはや線路って感じがしません。
この駅は2面4線構造、路面電車の停留場にしてはかなり広々しています。
車庫へ向かってカーブしていきまして、本線と平面交差。ダイヤモンドクロッシングみたいです。
平石中央小学校前停留場をすぎますと、鬼怒川を渡ります。
これこそおそらく宇都宮芳賀ライトレールで一番の見どころ、鉄道軌道単独の橋梁がかけられまして、鬼怒川を一望できます。
日本の路面電車の中でも、一番と言って良いのでは無いかという車窓。
非常に開けたこの景色は、路面電車からのものとは思えません。
鬼怒川を渡った軌道は、飛山城跡停留場に向けて地上へ。そのままかと思いきやまた高架へ登ってきました。
本当に自然豊かなところを走っており、街づくりゲームでまず路面電車を敷いて〜の段階に見えます。
普通鉄道さながらの地区を抜け、清陵高校前停留場を出発。
ここから再び道路沿いを走ることになります。今度は道路の真ん中ではなく、進行方向左側に寄って道路と軌道が並んで走る形です。
途中には道路と軌道が交差する部分がありますが、踏切を新設することはできないので、これはあくまで交差点に過ぎません。
この辺りが宇都宮清原工業団地であり、キヤノンを中心とした工場が立ち並んでいます。ライトラインはそんな工業地帯のど真ん中を突っ切っている形です。
そこに設置されているのが、清原地区市民センター前停留場です。1面2線構造で、ベンチのところには歯車など工業の町らしい写真が貼られていました。
ここは5つの停留場が対象である、トランジットセンター(乗り換え拠点)の一つ。工業団地内を通る路線バスとも乗り換えられ、広い駐車場を整備してパークアンドライドの需要も汲んでいます。
次のグリーンスタジアム前停留場は、ちょっと面白い構造をした停留場です。
まずは芳賀・高根沢工業団地方面の線路が分かれ、島式ホームに停車しました。
そして再び一本の線路へ戻りましたが、宇都宮駅東口方面のホームが見当たりません…。
と思っていると、反対側の線路も二手に分かれ、ホームが見えてきました。
上下のプラットホームが少々ズレたところに位置しているのでした。単式ホームがズレて設置してあるのはよく見ますが、島式ホームでは珍しいように思います。
グリーンスタジアム前停留場は平石停留場と共に、追い越しが可能な2面4線構造です。この停留場はおそらく道路が並行しているためスペースの都合上、このような配置になったものと思われます。
軌道は再び高架線へ登っていきました。
交差点を曲がるのに十分な用地が無かったみたいで、わざわざ立体交差しています。
そして平石停留場手前でお別れした鬼怒通りですが、そのまま接続する実質同じ道路の芳賀バイパスの真ん中を走ります。
ロードサイド店舗が多く見られまして、まさに車社会というのを体現しています。
ここで宇都宮市から芳賀町に入りました。
これまで鉄道が無かった芳賀町の中心駅と位置づけられる、芳賀町工業団地管理センター前停留場を過ぎると、交差点のど真ん中を90度カーブします。
宇都宮芳賀ライトレールが走るのは丘陵地のようで、こうして見ると本当に勾配がきついです。ちょうどライトラインが走っていますが、ケーブルカーみたいに山を伝っているみたいに見えます。
また、この一番列車に並行するように、「祝開業 芳賀・宇都宮LRT」と表示した路線バス車両が走っていました。ライトラインまで描かれていて、特別感がマシマシです。
芳賀・高根沢工業団地にあるホンダの工場は、これまで関係者向けの送迎バスを運行していました。しかし、LRTが開業したことに伴い、これも廃止することが報じられています。
本来なら45分ほどでたどり着けるところ、今日は1時間ちょっとかけて終点の芳賀・高根沢工業団地停留場に到着しました。
ここも宇都宮東口停留場と同じく1面2線構造で、折り返しできるよう手前に渡り線が設けられています。
最後に車内を見てみますが、やはり黄色の明るさが際立ちます。
座席も丸っぽい形をしており、非常に優しい印象です。
流線型でスタイリッシュなカッコ良さと、車内空間の親しみやすさ。デザイン性にも優れており、宇都宮の新しい顔です。
全国には路面電車整備を目指す地方都市がたくさんあります。
この街の未来だけではなく、他の街の未来が走り出すかどうか。その運命はここに託されていると言っても過言ではありません。
ぜひ市町民の日常に浸透し、採算が合う公共交通機関としての成功を願います。
今回もご覧いただき、ありがとうございました。
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