世の中には表と裏、2つの顔を持つものが沢山あります。一体どちらの顔なのか、パッと見で判断できるものではありません。
そのようなものは、乗り物の分野でも存在します。
例えばこちら、バスと鉄道、どちらに見えるでしょうか?
実はこれ、鉄道なのです。
それではこちらはどうでしょう?
同じに見えるでしょうが、これはバスです。
今回ご紹介するのは初見さんを混乱させる、ガイドウェイバス『ゆとりーとライン』です。
名古屋市は16の行政区を持つ政令指定都市で、三大都市のひとつともされます。
そんな中で注目するのは北東部に位置する守山区です。
ここにはJR中央本線、名鉄瀬戸線が走っており、南部の小幡周辺は鉄道を中心とした交通網が十分に整備されていました。
一方で少々不便だったのが北部の志段味地区。
名古屋市中心部に出るには春日井市内のJR中央本線の駅まで出るか、小幡経由でバスを乗り継ぐ等の方法がとられていました。
そんな志段味地区では宅地開発が進み、志段味ヒューマン・サンエンス・タウン構想という新たなまちづくり計画が持ち上がりました。
これによって需要が増す志段味〜名古屋中心部に向けて、新たな交通を整備することとなったのです。
しかし鉄道では輸送力過多で、莫大な建設費用がかかる上に失敗したら大変なことになります。
一方バスでは小幡駅経由でも問題になっていた、都市圏内での渋滞に巻き込まれるということが解決しないままです。
そこで検討されたのがガイドウェイバス、現在のゆとりーとラインの形だったのでした。
混雑する都市圏内ではバス専用の高架を飛ばし、途中からはバス路線として公道を走ります。
そしてこの高架区間では、このバスが鉄道として運行するのです。
まずはその様子が見られる現地へ行ってみましょう。
鉄道区間とバス区間が変わるのは小幡緑地駅です。
駅の近くでは一見バスに見える乗り物が鉄道へと変身する瞬間を見られます。
バスは専用のロータリーへと入ると、高架橋へ登っていきます。鉄道で言えば信号場で線路に入っているようなものです。
バーの前で一時停止するとタイヤのあたりから何やらニュッと出てきました。これが、どう見てもバスの車が鉄道になるミソになります。
出てきたのは案内輪と呼ばれるものです。この車輪が高架区間に設けられているレールに沿って走っていきます。
案内輪がこのレールに沿って走るため、鉄道とされているのです。
このような方式はガイドウェイバスと呼ばれており、日本では唯一の交通機関になります。
しかし案内輪を作ったためにノンステップにすることは出来ず、お年寄りにも厳しい構造になってしまいました。
バスは春日井市の高蔵寺駅や、志段味地区からやって来ます。
それではゆとりーとライン、鉄道区間に乗っていきましょう。
バスは住宅街が広がるまちなか、高架橋を走っていきます。
何度も言うようにこの区間は鉄道で案内輪があります。そのためハンドル操作の必要はなく、運転士さんは手放し運転をして問題ありません。
一方でバス運行のための第二種大型運転免許と鉄道の無軌条電車運転免許の両方が必要になっています。
運転士さんの採用等も大変ですし、ワザワザ鉄道にする必要は無く、ただ高架上をバスが走ればよかった気がします…。
そんな鉄道方式の高架区間ですが、利用客が十分見込めた場合、設備をそのまま活用して本格的な鉄道に転用することも考えられていました。
しかし途中走るのはやけに急勾配の高架橋。まるでジェットコースターのようなところを坂道に弱い鉄道が走るのは厳しいでしょう。
結局設備の殆どは鉄道に転用できないという判断が下されています。
砂田橋駅〜大曽根駅は市営地下鉄名城線と並走します。
途中のナゴヤドーム前矢田駅近くには、中日ドラゴンズ仕様のファミリーマートがありました。
列車はレールと共に急カーブを曲がって、終点の大曽根駅に到着です。
大曽根駅には隣接して車両基地があり、ここで折り返す列車はUターンして出発ホームへと入ります。
ここから地上へ下りることはできないので、中心部へ乗り入れはしていません。
かなり大掛かりな設備を有するゆとりーとラインですが、建設費は30億円を予定していた所、54億円に膨張。2006年には債務超過に陥ってしまいました。
しかし2001年の開業時から利用客は倍増。高架区間の1日の利用客数は1万人を超えて、2016年には単年度黒字を達成しています。
実際、今回乗車したときもかなりの乗客がおり、運賃の支払いは駅の改札で行うよう促されました。
鉄道とバスの機能を一体にしたことでコストや面倒が増えてしまったガイドウェイバス。
しかし現在では自動運転化も検討されており、未来も明るい交通機関です。
不思議な鉄道が非常に多い名古屋圏内ですが、ゆとりーとラインはその中でも群を抜いて面白いと思います。
名古屋にいらした際はぜひ乗ってみて下さい。
今回もご覧いただき、ありがとうございました。
名古屋市周辺の白地図:白地図専門店より編集
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