-
【どこ走ってんの?】特急はるか号の特殊な運行ルートの理由 貨物線走行を徹底解説[2305タウシュベツ(1)]
多くの外国人観光客がやってくる古都京都。モダンな幾何学的構造物によって形成される京都駅は、コロナ禍が明けて大きな賑わいを見せています。 今回ご紹介するのは、そんな外国人観光 ...
続きを見る
だだっ広い原野がどこまでも続くイメージとは裏腹に、山がちな地形となっている北海道。
そんな北の大地で、最大の峠と言えるのが三国峠です。
日本最大の国立公園、大雪山国立公園を走るほど自然のど真ん中を貫きます。
かつてこの峠を越える鉄道路線が計画されており、帯広駅から北上していた国鉄士幌線は、石北本線の上川駅まで結ばれる予定でした。
旭川から帯広までを短絡する鉄道として位置付けられたのですが、峠を手前にした十勝三股駅(上士幌町)までの開通に留まり、国鉄士幌線も1987年に全線廃止されています。
現在では三国峠を越える国道273号が開通しており、帯広〜旭川を結ぶノースライナーが走っています。
両都市間を結ぶ急行バスのうち、三国峠を越えるルートは1日1往復だけ。
鉄道で結ぶことが叶わなかった、北海道で一番険しい峠道を行きましょう。
10:10 旭川駅前 発
旭川〜帯広を結ぶバスは4往復、そのうち3往復が富良野・新得を経由する狩勝峠経由のノースライナー号です。
貴重な1日1往復だけ、三国峠経由のノースライナーみくに号が発車しました。
新旭川駅から北へ分かれていく、JR宗谷本線の高架下をくぐります。
普段は鉄道で来るばかりなので、ロードサイド店舗で栄える、旭川の郊外の様子が新鮮でした。
それも過ぎまして、当麻町や愛別町の長閑な田園風景へ出ていきます。
雲で隠れてしまっていますが、道内最高峰の旭岳を有する、大雪山の山々も見られました。
バスが走っているのは国道39号、時折並行する旭川紋別自動車道の下をくぐります。
旭川から北見、網走へは自動車道を走る高速バスが強く、石北本線は特急列車でも厳しい状況です。
ちょうど網走から来た石北本線の特急大雪2号がやって来ました。
2023年春から283系気動車が投入され、グリーン車無しの3両編成になってかなりコンパクトです。
旭川駅から1時間ほど、上川駅が見えて来ました。
旭川〜上川は石北本線の普通列車もそれなりに運行されており、旭川周辺のローカル線として機能しています。
駅からすぐ近くに位置する、上川駅前森のテラスバスタッチに停車します。
ここがバスターミナルとなっており、上川町の観光地である層雲峡温泉への交通拠点です。
石北本線から離れ、バスは三国峠へ向けて南下します。
もしここに鉄道が走っていたなら、上川駅から同じように鉄道が分岐していたはずです。
上川駅から層雲峡に関しては、かつて層雲峡森林鉄道が伸びていました。
1959年に全通したものの、これもトラック輸送に代わって短命に終わっています。
層雲峡が近づいて来たところで、左手に見える茶色いセブンイレブン。
スキージャンプ高梨沙羅選手のご両親がオーナーをなさっていることで知られています。
大雪山系最大の温泉街が広がる、層雲峡に到着です。
こちらで数分間の休憩。
層雲峡ビジターセンターは2021年から22年にかけてリニューアルしており、明るくなった印象です。
山の色が新緑から濃い緑色へ変わりつつある頃、雪解け水が岩肌を削った痕跡も見受けられました。
大雪山周辺の自然を一望できる黒岳、そこへ向かってはロープウェーが伸びています。
火山性の大雪山ですが、その中では珍しく頂上付近まで緑豊か。黒岳の名前もこれに由来しているようです。
大雪山を起点とする北海道最大の河川、石狩川に沿って走り出します。
奥には白い温泉旅館やホテルが立派に立っており、昭和感溢れる昔ながらの観光地という雰囲気を感じられました。
国道39号は3,388mに及ぶ銀河トンネルに入りました。
かつては石狩川に沿って道路が整備されていたものの、1987年に3名が死亡する天城岩崩落事故が発生。小函トンネルを整備しましたが落石が頻発したため、山を貫く長大トンネルを掘削しました。小函トンネルの一部も使用しており、1995年に完成しています。
トンネルを抜けた先にあるのが、層雲峡で一番の峡谷美と言われる「大函」。
柱状節理の断壁が並ぶ光景は壮観で、まるで石材を並べたような規則正しさがあります。
ここまで国道273号と国道39号の重複区間を走っていましたが、国道39号は北見方面へ分かれていきます。
左手には大雪湖が広がる景色をすぐ横に見られ、国道273号はそれを作り出した大雪ダムの上を走っているようです。
樹海トンネルというちょっと不穏なトンネルを抜けつつ、上流にしては穏やかで川幅の広い石狩川を渡ります。
ここで道路は大カーブしており、大雪湖を避けるようにした巨大Vの字カーブを描いていました。
そのおかげで石狩川越しに大雪山の巨大な山塊を見られ、雪解けが織りなす美しい模様を観察できました。
景色からもどんどん標高が高くなっているのを感じ取れ、道路は大きな高架橋で渡されています。
前面から流れる風景も、自然のハイウェイという雰囲気です。
そして、国道273号はいよいよ北海道最大の峠、三国峠に入ります。
兜のような形をした入り口が見えて来ました、三国トンネルです。
トンネルを抜けた先の糠平ダム建設のため、1971年開通と意外にも古くから存在しています。
全長は1,152m、トンネルとしてはそこまで長いものではありません。
建設が始まったのは1964年、森林保護の観点から上士幌側に建設発生土を排出しないよう、上川側から掘削されました。
この辺りをGoogleMapで見てみると、「北海道大分水点」なるものが表示されています。
日本海に注ぐ石狩川、太平洋に注ぐ十勝川、オホーツク海に注ぐ常呂川の3河川が分かれているのです。3つの外海へ川が流れ出る、そんな大分水点はここが日本唯一です。
三国トンネルを抜けて、石狩国から十勝国へ。
駐車場が設けられて喫茶店もあるこの場所には、三国峠の看板が立っていました。
そして左手に広がる景色は絶対に見過ごせません!
三国峠は標高1,139mであり、北海道の国道で一番標高が高い地点となります。
手前にはトドマツやエゾマツの樹海が広がっており、9月下旬から10月上旬にかけては黄葉の景色を楽しむことができます。
樹海の向こう側には田畑が広がっており、おそらく上士幌町や士幌町辺りの農業地帯。その周りを道東の山々が囲んでいるのでしょう。
すぐ下に見えているのは松見大橋です。この国道273号はヘアピンカーブで勾配を緩和しているので、このバスもあそこまで降ります。
この三国峠の景色から連想されるのが、狩勝峠です。
根室本線の富良野〜新得に存在する狩勝峠は、かつて大カーブによって勾配を緩和していました。その景色は日本三大車窓のひとつだったのですが、1966年に空知トンネルが貫く新線へ付け替えられています。現在は代行バスによる運行で、道路から同じ車窓を見られるようになりましたが、2024年春頃に鉄道路線としては廃止見込みです。
三国峠は道路ですらヘアピンカーブを描いており、もし鉄道が通っていたらスイッチバックやループ線などが設けられて、日本三大車窓を襲名していたかもしれません。
ググッとまるで来た道を戻るようにして曲がり、左手にはさっき走っていた道路が近づいてきました。
この景色を目的にしてでもノースライナーに乗車される際は、狩勝峠ルートではなく、ぜひ三国峠ルートを選んでいただきたいです。
三国峠を終えて穏やかに降りつつ、景色も段々と落ち着いてきました。
白樺並木を横目に、上士幌町の糠平を目指します。
まもなく士幌線の終着駅、十勝三股駅跡が見えてきます。
駅跡を思わせる構造物は確認できませんが、かつて木材輸送で賑わった広い構内を何となく窺い知れます。
十勝三股駅跡周辺に住んでいらっしゃるのは、現在2世帯4人のみ。そのうち1軒ではカフェを営んでいらっしゃいます。
分水界を超えた国道273号沿いには、音更川が流れます。
廃線跡が存在する川の向こう側には長さ40mに及ぶアーチ橋、十三の沢橋梁跡があるそう。
廃線跡が近づいてくると、バスからでもアーチ橋を見ることができます。
こちらは第五音更川橋梁、10mの無筋コンクリートアーチは国の登録有形文化財にも指定されました。
休憩所の近くには幌加駅跡があって、真っ白な駅名標が見えています。
プラットホームも残されているようで、鉄道ファンでなくてもあれは何だろうと気になりそうです。
さらにコンクリートアーチ橋は続きまして、森に隠れているものの五の沢橋梁跡が。
アーチの数は少ないですが、その分自然に溶け込んでいてディスカバー感を味わえます。
一部ではまだ線路が残っているところもありました。こちらは「森のトロッコ鉄道エコレール」、廃線跡を活用して足こぎトロッコが走っているのです。
トロッコの終点より先は遊歩道として整備されており、その奥にはダム湖の糠平湖を見渡せます。
上士幌町に入って最初の大きな集落、ぬかびら源泉郷です。
温泉ホテルやスキー場などがあり、観光客を迎える宿泊施設や飲食店などが集まっています。
12:57 ぬかびら源泉郷 着
今回は旭川から帯広まで乗り通すことはせず、こちらで下車しました。帯広駅バスターミナルには14:35着、旭川駅からの所要時間は4時間25分です。
近くにあるのがビジターセンター、ひがし大雪自然館です。観光案内所も入居しています。
大雪山国立公園の自然に関する解説が中心でしたが、国鉄士幌線についても紹介されていました。特に有名なのがバスから見られたアーチ橋、現在でも特徴的なコンクリートアーチ橋が数多く残っています。
ヒグマをはじめとした生き物の剥製まで展示されており、登山せずとも上士幌町の山深い自然に触れることができました。
それでもやっぱり気になるのは国鉄士幌線の方、10分ほど歩いた先にある上士幌鉄道資料館へ向かいます。
4月〜10月の9時〜16時営業で、入館料は100円。月曜定休で7,8月は無休です。
国鉄士幌線は農産物や木材の輸送のために建設された路線。
ご紹介したように帯広から旭川の都市間輸送も考慮され、改正鉄道敷設法にも規定が残っていますが、ここに記されないほど具体的計画は立てられなかったようです。
三国峠を手前にして、最大25‰の急勾配があった国鉄士幌線。列車が暴走する列車事故も相次いでいたようです。
また、道路開通前で鉄道が唯一の交通手段だった頃もあり、鉄道が不通になると集落が完全に孤立してしまう状況でした。
国鉄再建法に伴い、国鉄士幌線は第2次特定地方交通線に指定。
廃止すべき赤字路線の対象となり、1987年に全線廃線となりました。
糠平〜十勝三股に関しては、全線廃止9年前から鉄道が休止扱い。代行バスによる運行へ切り替えられています
士幌線全体の営業係数が1,497円だったのに対し、糠平〜十勝三股は22,500円。現在日本一の赤字路線とされる芸備線の東城〜備後落合に匹敵します。
現在ではほとんど人がいなくなってしまった、終着駅十勝三股駅周辺。林業の最盛期には1500人も住んでいたそうです。
資料館には当時の駅名板や時刻表など、廃線鉄には堪らないグッズが沢山集まっていました。
廃線時には上士幌町長が糠平駅の一日駅長になったそう。
他にもコースターが販売されたりと、他ローカル線と同様にお別れは賑わったようです。
ひと通り見回りまして、外へ出てきました。
上士幌町鉄道資料館があるのは、糠平駅跡地です。
ここには国鉄3500形貨車が保存されています。
なぜかワンワンとうーたんがいましたが…。
2019年に運行を終了してしまいましたが、観光トロッコの整備に合わせて駅名標が新しくなっています。
鉄道資料館には、現役当時の糠平駅の写真がありました。これと比べてしまうと当然ですが、ほとんど撤去されてしまっていることが分かります。
さて、国鉄士幌線の廃線跡と言ったら、このコンクリートアーチ橋が有名です。
毎年ダムに沈み氷にも削られた痛々しい姿。実際に訪れなければ分からない、自然に還りゆく神秘的な空間です。
次の記事では、ツアーに参加した様子をお届けしたいと思います。
今回もご覧いただき、ありがとうございました。
-
【北海道最長路線】根室本線を普通列車で乗り通し10時間の旅[2021特急ニセコ(9)]
※訪問日は2021年9月24日です。使用車両など現状と大きく変わっている部分があります。 曇り空の秋の早朝、函館本線の滝川駅に来ています。 ここは全ての特急列車が停車する、函館本線の中で重要な駅です。 ...
続きを見る
-
【毎年ダム湖に沈む橋】日本一美しい廃線「タウシュベツ川橋梁」見学ツアーに参加[2305タウシュベツ(3)]
日本一美しい廃線跡と言われる、タウシュベツ川橋梁。 毎年ダムに沈み、-20℃で凍てつく厚い氷に削られていきます。 これがあるのは北海道の内陸部、帯広駅から十勝三股駅を結んだ国鉄士幌線の廃 ...
続きを見る