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【北海道最強の峠】士幌線が来なかった三国峠 1日1往復ノースライナーみくに号乗車記[2305タウシュベツ(2)]

2023年6月6日

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だだっ広い原野がどこまでも続くイメージとは裏腹に、山がちな地形となっている北海道。

そんな北の大地で、最大の峠と言えるのが三国峠です。

日本最大の国立公園、大雪山国立公園を走るほど自然のど真ん中を貫きます。

 

かつてこの峠を越える鉄道路線が計画されており、帯広駅から北上していた国鉄士幌線は、石北本線の上川駅まで結ばれる予定でした。

旭川から帯広までを短絡する鉄道として位置付けられたのですが、峠を手前にした十勝三股駅(上士幌町)までの開通に留まり、国鉄士幌線も1987年に全線廃止されています。

 

現在では三国峠を越える国道273号が開通しており、帯広〜旭川を結ぶノースライナーが走っています。

 

両都市間を結ぶ急行バスのうち、三国峠を越えるルートは1日1往復だけ。

鉄道で結ぶことが叶わなかった、北海道で一番険しい峠道を行きましょう。



10:10 旭川駅前 発

旭川〜帯広を結ぶバスは4往復、そのうち3往復が富良野・新得を経由する狩勝峠経由のノースライナー号です。

貴重な1日1往復だけ、三国峠経由のノースライナーみくに号が発車しました。

 

新旭川駅から北へ分かれていく、JR宗谷本線の高架下をくぐります。

 

普段は鉄道で来るばかりなので、ロードサイド店舗で栄える、旭川の郊外の様子が新鮮でした。

 

それも過ぎまして、当麻町や愛別町の長閑な田園風景へ出ていきます。

雲で隠れてしまっていますが、道内最高峰の旭岳を有する、大雪山の山々も見られました。

 

バスが走っているのは国道39号、時折並行する旭川紋別自動車道の下をくぐります。

 

旭川から北見、網走へは自動車道を走る高速バスが強く、石北本線は特急列車でも厳しい状況です。

 

ちょうど網走から来た石北本線の特急大雪2号がやって来ました。

2023年春から283系気動車が投入され、グリーン車無しの3両編成になってかなりコンパクトです。



旭川駅から1時間ほど、上川駅が見えて来ました。

旭川〜上川は石北本線の普通列車もそれなりに運行されており、旭川周辺のローカル線として機能しています。

 

駅からすぐ近くに位置する、上川駅前森のテラスバスタッチに停車します。

ここがバスターミナルとなっており、上川町の観光地である層雲峡温泉への交通拠点です。

 

石北本線から離れ、バスは三国峠へ向けて南下します。

もしここに鉄道が走っていたなら、上川駅から同じように鉄道が分岐していたはずです。

 

上川駅から層雲峡に関しては、かつて層雲峡森林鉄道が伸びていました。

1959年に全通したものの、これもトラック輸送に代わって短命に終わっています。

 

層雲峡が近づいて来たところで、左手に見える茶色いセブンイレブン。

スキージャンプ高梨沙羅選手のご両親がオーナーをなさっていることで知られています。



大雪山系最大の温泉街が広がる、層雲峡に到着です。

こちらで数分間の休憩。

層雲峡ビジターセンターは2021年から22年にかけてリニューアルしており、明るくなった印象です。

 

山の色が新緑から濃い緑色へ変わりつつある頃、雪解け水が岩肌を削った痕跡も見受けられました。

 

大雪山周辺の自然を一望できる黒岳、そこへ向かってはロープウェーが伸びています。

火山性の大雪山ですが、その中では珍しく頂上付近まで緑豊か。黒岳の名前もこれに由来しているようです。



大雪山を起点とする北海道最大の河川、石狩川に沿って走り出します。

奥には白い温泉旅館やホテルが立派に立っており、昭和感溢れる昔ながらの観光地という雰囲気を感じられました。

 

国道39号は3,388mに及ぶ銀河トンネルに入りました。

かつては石狩川に沿って道路が整備されていたものの、1987年に3名が死亡する天城岩崩落事故が発生。小函トンネルを整備しましたが落石が頻発したため、山を貫く長大トンネルを掘削しました。小函トンネルの一部も使用しており、1995年に完成しています。

 

トンネルを抜けた先にあるのが、層雲峡で一番の峡谷美と言われる「大函」。

柱状節理の断壁が並ぶ光景は壮観で、まるで石材を並べたような規則正しさがあります。



ここまで国道273号と国道39号の重複区間を走っていましたが、国道39号は北見方面へ分かれていきます。

左手には大雪湖が広がる景色をすぐ横に見られ、国道273号はそれを作り出した大雪ダムの上を走っているようです。

 

樹海トンネルというちょっと不穏なトンネルを抜けつつ、上流にしては穏やかで川幅の広い石狩川を渡ります。

 

ここで道路は大カーブしており、大雪湖を避けるようにした巨大Vの字カーブを描いていました。

 

そのおかげで石狩川越しに大雪山の巨大な山塊を見られ、雪解けが織りなす美しい模様を観察できました。

 

景色からもどんどん標高が高くなっているのを感じ取れ、道路は大きな高架橋で渡されています。

 

前面から流れる風景も、自然のハイウェイという雰囲気です。



そして、国道273号はいよいよ北海道最大の峠、三国峠に入ります。

兜のような形をした入り口が見えて来ました、三国トンネルです。

トンネルを抜けた先の糠平ダム建設のため、1971年開通と意外にも古くから存在しています。

 

全長は1,152m、トンネルとしてはそこまで長いものではありません。

建設が始まったのは1964年、森林保護の観点から上士幌側に建設発生土を排出しないよう、上川側から掘削されました。

 

この辺りをGoogleMapで見てみると、「北海道大分水点」なるものが表示されています。

日本海に注ぐ石狩川、太平洋に注ぐ十勝川、オホーツク海に注ぐ常呂川の3河川が分かれているのです。3つの外海へ川が流れ出る、そんな大分水点はここが日本唯一です。



三国トンネルを抜けて、石狩国から十勝国へ。

駐車場が設けられて喫茶店もあるこの場所には、三国峠の看板が立っていました。

 

そして左手に広がる景色は絶対に見過ごせません!

三国峠は標高1,139mであり、北海道の国道で一番標高が高い地点となります。

 

手前にはトドマツやエゾマツの樹海が広がっており、9月下旬から10月上旬にかけては黄葉の景色を楽しむことができます。

樹海の向こう側には田畑が広がっており、おそらく上士幌町や士幌町辺りの農業地帯。その周りを道東の山々が囲んでいるのでしょう。

 

すぐ下に見えているのは松見大橋です。この国道273号はヘアピンカーブで勾配を緩和しているので、このバスもあそこまで降ります。

 

この三国峠の景色から連想されるのが、狩勝峠です。

根室本線の富良野〜新得に存在する狩勝峠は、かつて大カーブによって勾配を緩和していました。その景色は日本三大車窓のひとつだったのですが、1966年に空知トンネルが貫く新線へ付け替えられています。現在は代行バスによる運行で、道路から同じ車窓を見られるようになりましたが、2024年春頃に鉄道路線としては廃止見込みです。

三国峠は道路ですらヘアピンカーブを描いており、もし鉄道が通っていたらスイッチバックやループ線などが設けられて、日本三大車窓を襲名していたかもしれません。

 

ググッとまるで来た道を戻るようにして曲がり、左手にはさっき走っていた道路が近づいてきました。

この景色を目的にしてでもノースライナーに乗車される際は、狩勝峠ルートではなく、ぜひ三国峠ルートを選んでいただきたいです。

 

三国峠を終えて穏やかに降りつつ、景色も段々と落ち着いてきました。

 

白樺並木を横目に、上士幌町の糠平ぬかびらを目指します。



まもなく士幌線の終着駅、十勝三股駅跡が見えてきます。

駅跡を思わせる構造物は確認できませんが、かつて木材輸送で賑わった広い構内を何となく窺い知れます。

 

十勝三股駅跡周辺に住んでいらっしゃるのは、現在2世帯4人のみ。そのうち1軒ではカフェを営んでいらっしゃいます。

 

分水界を超えた国道273号沿いには、音更川が流れます。

廃線跡が存在する川の向こう側には長さ40mに及ぶアーチ橋、十三の沢橋梁跡があるそう。

 

廃線跡が近づいてくると、バスからでもアーチ橋を見ることができます。

こちらは第五音更川橋梁、10mの無筋コンクリートアーチは国の登録有形文化財にも指定されました。

 

休憩所の近くには幌加駅跡があって、真っ白な駅名標が見えています。

プラットホームも残されているようで、鉄道ファンでなくてもあれは何だろうと気になりそうです。

 

さらにコンクリートアーチ橋は続きまして、森に隠れているものの五の沢橋梁跡が。

アーチの数は少ないですが、その分自然に溶け込んでいてディスカバー感を味わえます。

 

一部ではまだ線路が残っているところもありました。こちらは「森のトロッコ鉄道エコレール」、廃線跡を活用して足こぎトロッコが走っているのです。

 

トロッコの終点より先は遊歩道として整備されており、その奥にはダム湖の糠平湖を見渡せます。



上士幌町に入って最初の大きな集落、ぬかびら源泉郷です。

温泉ホテルやスキー場などがあり、観光客を迎える宿泊施設や飲食店などが集まっています。

 

12:57 ぬかびら源泉郷 着

今回は旭川から帯広まで乗り通すことはせず、こちらで下車しました。帯広駅バスターミナルには14:35着、旭川駅からの所要時間は4時間25分です。

 

近くにあるのがビジターセンター、ひがし大雪自然館です。観光案内所も入居しています。

 

大雪山国立公園の自然に関する解説が中心でしたが、国鉄士幌線についても紹介されていました。特に有名なのがバスから見られたアーチ橋、現在でも特徴的なコンクリートアーチ橋が数多く残っています。

 

ヒグマをはじめとした生き物の剥製まで展示されており、登山せずとも上士幌町の山深い自然に触れることができました。



それでもやっぱり気になるのは国鉄士幌線の方、10分ほど歩いた先にある上士幌鉄道資料館へ向かいます。

4月〜10月の9時〜16時営業で、入館料は100円。月曜定休で7,8月は無休です。

 

国鉄士幌線は農産物や木材の輸送のために建設された路線。

ご紹介したように帯広から旭川の都市間輸送も考慮され、改正鉄道敷設法にも規定が残っていますが、ここに記されないほど具体的計画は立てられなかったようです。

 

三国峠を手前にして、最大25‰の急勾配があった国鉄士幌線。列車が暴走する列車事故も相次いでいたようです。

また、道路開通前で鉄道が唯一の交通手段だった頃もあり、鉄道が不通になると集落が完全に孤立してしまう状況でした。

 

国鉄再建法に伴い、国鉄士幌線は第2次特定地方交通線に指定。

廃止すべき赤字路線の対象となり、1987年に全線廃線となりました。

 

糠平〜十勝三股に関しては、全線廃止9年前から鉄道が休止扱い。代行バスによる運行へ切り替えられています

士幌線全体の営業係数が1,497円だったのに対し、糠平〜十勝三股は22,500円。現在日本一の赤字路線とされる芸備線の東城〜備後落合に匹敵します。

 

現在ではほとんど人がいなくなってしまった、終着駅十勝三股駅周辺。林業の最盛期には1500人も住んでいたそうです。

 

資料館には当時の駅名板や時刻表など、廃線鉄には堪らないグッズが沢山集まっていました。

 

廃線時には上士幌町長が糠平駅の一日駅長になったそう。

他にもコースターが販売されたりと、他ローカル線と同様にお別れは賑わったようです。



ひと通り見回りまして、外へ出てきました。

上士幌町鉄道資料館があるのは、糠平駅跡地です。

 

ここには国鉄3500形貨車が保存されています。

なぜかワンワンとうーたんがいましたが…。

 

2019年に運行を終了してしまいましたが、観光トロッコの整備に合わせて駅名標が新しくなっています。

 

鉄道資料館には、現役当時の糠平駅の写真がありました。これと比べてしまうと当然ですが、ほとんど撤去されてしまっていることが分かります。

 

さて、国鉄士幌線の廃線跡と言ったら、このコンクリートアーチ橋が有名です。

毎年ダムに沈み氷にも削られた痛々しい姿。実際に訪れなければ分からない、自然に還りゆく神秘的な空間です。

次の記事では、ツアーに参加した様子をお届けしたいと思います。

 

今回もご覧いただき、ありがとうございました。

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